フェイスブック、グーグル、アマゾン、アップルが「データ錬金術」を使えなくなる日・・・【続・リーダーのための読書論(82)】
IT生活
「わたしたちはデジタル生活の恩恵を実感している。スマホのAIに語りかければ、検索アシスタントになり、ソーシャルネットワークを日に何度もチェックして『いいね』ボタンを友人たちと交流する。子どもたちの将来の夢は、ユーチューバーになって世界中から評価され、広告収入を得ることだ。インターネットにつながったあらゆるモノは、わたしたちを見つめ、さまざまなアドバイスをくれる」。
データ錬金術
『さよなら、インターネット――GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(武邑光裕著、若林恵解説、ダイヤモンド社)は、フェイスブック、グーグル、アマゾン、アップルなどのIT企業は、これまでのような、やりたい放題の「データ錬金術」は使えなくなると予言している。
「(シリコンバレーのIT巨人たちは)世界中の人々を魅了するデジタルアプリを無料で提供し、人々はその代わりに自らの個人データやプライバシーを彼らに譲り渡した。その結果、人々の個人データは、彼らの莫大な収益に貢献してきた。このトレードオフの中で、わたしたちはますます商品化され、コンテンツに置き換えられた」。
「普及しているインターネット・サービスに無料でアクセスできるということは、厳密には事実ではない。誰もグーグル検索を使用する際や、フェイスブックに登録したときにお金を支払うことはないが、ユーザーは実際には異なる通貨、つまり彼らの個人データで支払っているからだ。インターネット経済を駆動する手段として、個人データは重要な価値を持っている」。
20世紀前半に、未来のディストピアを描いた2つのSF小説が発表された。オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』(1932年)と、ジョージ・オーウェルの『1984年』(1949年)である。オーウェルは、独裁者により監視され統制される社会で私たちが味わう恐怖を描き出した。一方のハクスリーは、人々が監視や洗脳を愛するようになり、人間の思考能力を奪い取る「技術」を崇拝する世界を描いた。オーウェルは、真実が隠され、私たちの情報が奪われることを恐れ、ハクスリーは、真実とは無関係な多くの情報を与えられ、人々が情報の海に溺れ、受動的な人間に変えられてしまう世界を恐れた。現在、好き勝手に行われているIT企業のデータ錬金術を止めさせなければ、ハクスリーが描いたような社会になってしまうという危機感が本書の執筆動機となっている。
GDPR
2018年5月25日、EU(欧州連合)が施行したGDPR(一般データ保護規則)は、個人のプライバシーに基づく「データ保護」を世界に先駆けて厳格化した規則である。GDPRにおける個人データとは、 名前、写真、メール・アドレス、取引銀行の詳細、SNSの投稿やウェブサイトの更新情報、場所の詳細、医療情報、コンピューターのIPアドレス、生体遺伝子情報、思想・信条、入れ墨に至るまで、個人に関する広範囲な情報を意味している。
EUは、個人データとプライバシーがシリコンバレーのIT巨人たちによって狡猾に搾取されていると主張している。そして、EUは、GDPRの適用によって、世界の個人データ経済、データ資本主義を根本的に修正しようとしているのだ。
このGDPRの衝撃はEU内に止まらず、日本も含め全世界に多大な影響を及ぼすと見込まれている。
グーグルやフェイスブックを愛用し、アマゾンに多数の書評を掲載している私としては、本書を読み終えて、いささか複雑な心境である。