研究の最新成果を踏まえた写真、図、解説で人類進化の700万年を辿ろう・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1255)】
リヴィング・ルームで原稿を書いていると、窓辺からキンモクセイの芳香が漂ってきました。ハナミズキの実が真っ赤になっています。淡褐色型のオンブバッタの雌がやって来ました。散策中、ヒガンバナの仲間で、黄色い花を咲かせているショウキズイセン(ショウキラン、リコリス)を見つけました。白い花のコスモスが風に揺れています。因みに、本日の歩数は10,287でした。
閑話休題、『サピエンス物語』(ルイーズ・ハンフリー、クリス・ストリンガー著、篠田謙一・藤田祐樹監修、山本大樹訳、エクスナレッジ)は、人類進化の700万年の歴史が写真、図、解説によって、臨場感豊かに綴られています。
先ず注目すべきは、サヘラントロプス・チャデンシスです。「サヘラントロプスは解剖学的特徴から見て、人類とチンパンジーの系統が分岐した時期に近いと考えられる。年代敵にもおよそ700万年前と、現在考えられている分岐時期に近い」。
「アウストラロピテクス属(華奢型猿人とも呼ばれる)はおよそ420~200万年前までの間に存在し、初期ホミニン種にあたる。彼らは小柄で脳は小さく、二足歩行をしていたことがわかっている。・・・アウストラロピテクス属のいくつかの種が250万年より前に、後のホモ属とパラントロプス属(頑丈型猿人)へ進化した可能性が高い」。
1924年にレイモンド・ダートが発見したアウストラロピテクス・アフリカヌスは、およそ300~240万年前に存在していたと考えられています。その骨格化石の研究により、「多くの研究者が、人類の進化の過程では、脳が大きくなるより前に二足歩行と犬歯の縮小が発現していたと考えるようになった」。
「1974年、エチオピアで発見された小さな女性の骨格化石は、それまでに見つかったどの初期ホミニン化石より完全なものだった」。このアウストラロピテクス・アファレンシスの骨格化石は「ルーシー」という愛称で呼ばれ、この種の年代は370~300万年前と特定されています。
60~30万年前以降、広範囲に分布していたと考えられているホモ・ハイデルベルゲンシスに関し、重要なことが書かれています。「ハイデルベルゲンシスはネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先で、ユーラシア大陸とアフリカに分かれたハイデルベルゲンシスの子孫が、50万年前以前にそれぞれ進化したのではないかと長年考えられていた。しかし、新たに発見された化石と遺伝情報の解析によると、共通祖先はそれより古い時代に存在していて、ハイデルベルゲンシスより現代的な顔つきをしていたことが判明したため、従来の説は再考を迫られている」。著者らは、議論の余地はあるものの、ハイデルベルゲンシスより古い時代に存在していたホモ・アンテセソールがネアンデルタール人とホモ・サピエンスの共通祖先と考えているのです。
どうしてホモ・サピエンスだけが生き残ったのでしょうか。「ただ単にホモ・サピエンスが、時代や居住地域が重なり合ったほかの種を打ち負かしてきたからなのかもしれない。その要因として考えられるのは、彼らがほかの種よりも上手に動物を狩り、食べものを採集することができ、より文化を発展させて環境に適応し、そしてもっとも居住に適した場所に住み着いたことだ。さらに遺伝情報から見ると、(ホモ・サピエンス以外の)いくつかのグループは、現生人類がアフリカを出て各地に広まりだした頃には、もはやグループを維持していけるだけの人口や多様性を保持できていなかったことがわかっている。その結果、そういったグループは特に絶滅へと向かいやすかったのだろう」。
人類は一直線に進化したという考え方は、もはや時代遅れだと指摘しています。「アウストラロピテクス・アファレンシスがホモ・ハビリスを生み出し、それが今度はホモ・エレクトスへと進化し、再獣的にはホモ・サピエンスへ行き着くという1本の鎖のように連なった単純な進化は、ほとんどの化石標本がその広い分類に収まっているうちは、まったく正しいように思われてきた。しかし現在は、一直線に伸びた鎖の頂点にホモ・サピエンスがいるというよりは、複雑に枝分かれして広がる枝のように、人類進化の各段階には種の多様性があったことが明らかになっている」。
交配についての著者の見解も注目に値します。「ネアンデルタール人とホモ・サピエンスに関しては、数十万年にもわたって明らかに他の種として進化を続けているのだから、両者の間にわずかな交配があったことを優先して、同じ種だと考えるべきではない。実際、ここ数年で判明した異なるホミニン種の間で行なわれた交配は、どれもごくわずかなのだ。したがって、このことは700万年以上にわたる人類進化の特徴のひとつと考えるべきではないだろうか」。
写真、図、解説のいずれもが厳密に学術的であること、研究の最新成果を踏まえていること、著者の見解が明快であること――が、類書を圧する輝きを本書に与えています。