榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

群馬大学病院の腹腔鏡手術連続死亡事例は、未必の故意による連続殺人事件だ・・・【薬剤師のための読書論(31)】

【amazon 『大学病院の奈落』 カスタマーレビュー 2018年10月30日】 薬剤師のための読書論(31)

「群馬大学病院の腹腔鏡手術連続死亡事例は、未必の故意による連続殺人事件だ」というのは、『大学病院の奈落』(高梨ゆき子著、講談社)を読み終わった私の個人的な意見であることを断っておく。本書では、このような判断を示していないし、執刀医・須納瀬(すのせ)豊についても実名は出さず、「早瀬稔」という仮名を使用している。須納瀬の上司だった第二外科教授・竹吉泉も「松岡好」という仮名になっている。

「(肝胆膵の)腹腔鏡手術では、導入以後1年間で、患者4人の死亡が相次いだ。調査報告書によると、第二外科の医師のなかには、『死亡事例も出ており、危険なので中止させたほうが良い』と教授に進言した者もいたが、腹腔鏡手術は継続され、3年半の間に計8人の死亡者を出すことになった。このことに対しては、『P教授がそれを受け入れず、真摯に検討しなかったことは大いに問題であった』と強く批判した」。

「調査の結果、(松岡教授が)学術誌に虚偽の内容を発表した論文不正が疑われる事実も発覚した」。

さらに、「(松岡教授の)学会の認定資格を巡る不可解な事実も明らかにされた」。

「群馬大学病院で問題になった数々の出来事は、医療界の旧弊の一端が様々な形で顕在化したものであることが、この点からもうかがえる。第一外科と第二外科が分立して同種の診療を行ってきた、というのもその一例である」。

また、「調査報告書は、手術死の続発には、群馬大学病院が旗振り役となり、手術増に邁進していった組織事情も影響したと見ている。・・・第二外科の肝胆膵外科手術は特定の執刀医一人に頼りきりで行われており、一連の問題は、『手術数の限界を超えたことによる悪循環そのもの』だった」。

「早瀬のカルテ記載の乏しさは、かねて指摘されてきた。調査報告書も、そのことが死亡の連鎖を食い止める可能性さえ閉ざしたことを示唆した。・・・カルテ記載が適切であったなら、『他の医師の目に触れる機会もあったことから、重篤な状況に陥る前に、適切な処置が行われた可能性があった』『死亡事例の続発に早期に気づき、原因究明や再発予防策を講じる契機となったと考えられる』とされ、診療について詳細に記録しておくことが、患者の生死をも左右する命綱となりうることを再認識するよう促した」。

調査報告書には記されていないが、「遺族側の弁護団が、早瀬が執刀した腹腔鏡手術2例の録画映像を、協力関係にある専門医に検証してもらったところ、早瀬の技術に関しては、『手技はかなり稚拙である』『相当下手』『腹腔鏡の技量についてはかなり悪いといえる』などと、非常に厳しい評価が下された」。

この不幸な事例は、執刀医の技量不足が招いた悲劇であり、功名心に逸る医師たちの問題を浮き彫りにしている。

東京大心臓外科教授から三井記念病院長に転じた髙本眞一の「いまはあまりにも、ドクター・オリエンテッド(医師重視)というか、医者の側から見るような発想がまかり通っている。自分が患者になったときのこと、家族が患者になったときのことを考えれば、医師のミッションは何か、簡単にわかるはずなんですがね」という言葉が、心に重く響く。

医療関係者、患者のみならず、一人でも多くの人々に読まれるべき一冊である。