榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

中世のスペインには、男性顔負けの活躍をした女王・王妃・王女たちがいた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1438)】

【amazon 『スペイン中世烈女物語』 カスタマーレビュー 2019年3月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(1438)

東京の上野公園と新宿御苑で花見を楽しみました。上野公園ではソメイヨシノ、新宿御苑ではソメイヨシノ、ヨコハマヒザクラ、ヨウコウ、アメリカ、オオシマザクラをカメラに収めました。因みに、本日の歩数は17,371でした。

閑話休題、『スペイン中世烈女物語――歴史を動かす「華麗」な結婚模様』(西川和子著、彩流社)は、扱っている国と時代は異なるが、塩野七生の『ルネサンスの女たち』(塩野七生著、中公文庫)を思い起こさせます。歴史をよく調べていて、記述が史実に忠実なこと、それでいて、文章が生き生きしていてドラマティックなこと――が、両者の共通点と言えるでしょう。

10世紀の「ナバラ王国を強大にしたのは、トダ」、11世紀の「王国再編の裏に、3人の王女」、「イスラム王女、サイーダ」、12世紀の「お転婆女王、ウラカ」、「1歳の女王、ペトロニーラ」、13世紀の「国をひとつに、ベレンゲーラ」、「何という強さ、マリア・デ・モリナ」、14世紀の「王の寵愛を、レオノール・デ・グスマン」、15世紀の「歴史に翻弄、フアナふたり」に登場する女性たちは、いずれも興味深い存在だが、私にとって最も勉強になったのは、スペインの歴史の大きな流れを把握できたことです。

スペインの中世は、レコンキスタ時代と重なっています。「西暦711年、キリスト教徒の住むイベリア半島に、アフリカ大陸からジブラルタル海峡を渡って、突如イスラム教徒の軍隊が侵攻してきました。本当にあれよあれよという間にイベリア半島はイスラムの支配下となってしまったのですが、それからわずか7年後の西暦718年には、キリスト教徒側は新しい国、アストゥリアス王国を建国し、イスラムとの戦いを開始したのです。これから約800年を費やして、イベリア半島からイスラムを追い出していくのですが、こうして国土を以前のキリスト教徒のものに回復させていったのが、『レコンキスタ(国土回復運動)』でした」。

「レコンキスタの800年間、イスラムとの国境を南へ南へと押し下げていったのは確かですが、キリスト教国同士も争っていました。互いに国や領土を取ったり取られたり、を繰り返しているうち、国の形も整っていったのです。・・・『国や領土を取ったり取られたり』には、(戦闘行為だけでなく)婚約や結婚、婚約解消や結婚無効や離婚など、女性が一方の主役となる多くの出来事が関係していました。この時代、争っているのは王国同士ですから、互いの国の王子と王女の結婚には、やがて生まれてくる子どもが両国を継ぐ、と結婚協定に組み込まれていることもありました。あるいは、争っている土地を持参金として持って、他国に嫁ぐこともあったのです。うまくいけば、争いを平和的に解決することができるからです」。

「いろいろと有利な条件が揃って結婚しても、子どもが生まれないこともあり、『子が生まれない』のは立派な離婚の理由にもなるため、王女は悲しみに沈みながら自国に戻ることにもなりました。しかし、戻ってみれば、再び役に立つ大切な駒として、新たな結婚に向けて外交が開始されることもあったのです。無事出産まで漕ぎ着けても、出産は、立派な宮廷医がいる王家においても、女性にとって命がけでした。多くの、王家や高位貴族の女性たちは、出産にあたり遺言を残し、財産の行方を記していました。嫁いだ後も、自国から持ってきた財産は自分のものである場合もあり、また結婚時の夫からの贈り物が自分の財産に組み込まれている場合もあったからです。その行く末をしっかりと書き残してから、自らの命を失うかもしれない出産に臨んだのです。また、流産や死産を繰り返した後に、やっと生まれたのが女の子であったりすると、その子は生まれながらにして『女王』として育てられることもありました。もう子どもは望めないかもしれない、という危機感があったからです。しかし、やがて弟が生まれれば、その女の子は、すぐに王位継承対象者からは外されてしまうのです。また、正式な王妃であるのに王から嫌われ、あるいは王に美しい女性やお気に入りの女性が存在していたために、王から離れたところで半ば幽閉状態で暮らすことになった王妃もいたのです」。

「この中世のレコンキスタ時代を調べていると、男たちは歴史の表舞台で実際に戦っているけれど、女性たちも、その立場立場で戦っていることがわかります。強い女性も賢い女性も、類い稀なる美しい女性もいました。少女時代に思い描いていた光景とは全く異なる、思いがけない人生を歩むことになった女性も見えてきます」。本書では、こういう女性たちの「烈女」ぶりが臨場感豊かに描き出されているのです。