榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ボルヘスの悪党・無法者列伝・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1461)】

【amazon 『汚辱の世界史』 カスタマーレビュー 2019年4月20日】 情熱的読書人間のないしょ話(1461)

ミツバツツジが薄紫色の花を咲かせています。さまざまな色合いのヒラドツツジが咲き競っています。紫色のヒラドツツジはオオムラサキという園芸品種です。クルメツツジ(キリシマツツジ)も頑張っています。ドウダンツツジが釣り鐘状の白い花をぶら下げています。ヤマブキが黄色い花を、シロヤマブキが白い花を付けています。黄色いモッコウバラが芳香を漂わせています。我が家のハナミズキの赤い総苞が桃色になってきました。因みに、本日の歩数は10,504でした。

閑話休題、『汚辱の世界史』(J・L・ボルヘス著、中村健二訳、岩波文庫)は、世界の悪党や無法者を主人公にした短篇集です。

とりわけ興味深く読んだのは、「ラザラス・モレル――恐ろしい救世主」、「ビル・ハリガン――動機なき殺人者」、「吉良上野介――傲慢な式部官長」です。

ラザラス・モレルは極悪非道の黒人奴隷解放者です。「19世紀のはじめ、ミシシッピ沿いの広大な綿花農園では、夜明けから日没まで黒人が使役され、夜は丸太小屋の土間に寝かされていた。・・・彼らは監視人の鞭の下で、身を屈め列をくんで働いた。だれか逃亡したことがわかると、顔中ひげだらけの男たちが美しい馬に跳び乗り、吠えたてる猟犬をしたがえて追跡をはじめる」。

「これ見よがしに指輪をいくつも光らせながら、彼(モレルの配下)らは広大な南部の農園を馬で乗りまわす。一人のあわれな黒人にこれぞと目星をつけると、すかさず自由にしてやるがどうだともちかける。そして、あらまし次のような条件を切り出す。まず本人がいまの主人のところか逃げてきて、遠く離れた農場にもう一度売られる。そのさい、代金の一部は本人のものになる。彼は二度目の主人からもういっぺん逃亡するが、今度は無事、自由州に逃がしてもらえる。自由と金、もう何をしてもいいうえに、ポケットには銀貨が鳴っている――当の黒人に、これ以上に魅力的な誘惑がありうるだろうか。彼はすっかり大胆になって、最初の逃亡をこころみる」。

「逃亡奴隷が自由を要求する。すると混血の組員(モレルの配下)たちは、さながら亡霊のようにどこからともなくあらわれ、仲間同士で命令を合図しあう。それは時にはうなずきあうだけで充分だった。こうして奴隷は解放される――見ること、聞くこと、さわることから。昼、屈辱、時間、恩人たち、憐憫、空気、猟犬の群れ、世界、希望、汗から。そして自分自身からも。一発の弾丸、ナイフかこぶしの一撃ですべてが終わる。あとはミシシッピの大亀や鯰がこの最後の証拠物件を有難く頂戴する」。

「(アリゾナの荒野には)ビリー・ザ・キッドのイメージが重なりあう。精悍不動の騎馬姿、荒野を驚かす無情の六連発銃を手にしたガンマン――弾はまるで魔法のように遠くから飛んできて音もなく人を殺した。金属の鉱脈が縦横に走り、乾燥してぎらぎらと明るい砂漠。21で死んだとき、大人の正義に借財として21の殺し(『メキシコ野郎は勘定に入れないで』)を負うていた子供同然の青年」。

「(大男のメキシコ人を撃ち殺した)幸運の一発で(ビル14の時の)、英雄ビリー・ザ・キッドが誕生し、けちな悪餓鬼ビル・ハリガンは死んだ。下水道を根城にして、待伏せ強盗を専門にしていた少年ギャングは逞しい西部辺境の男に成長したのである。・・・命知らずの7年間、彼は無頼の限りをつくした」。

吉良上野介については、大筋は合っているが、細かい点では史実との違いが多々見られます。

同年生まれのアーネスト・ヘミングウェイに負けず劣らずハードボイルドです。