榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ローマのスキピオは、宿敵・カルタゴのハンニバルにどう立ち向かったか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1490)】

【amazon 『ハンニバル戦争』 カスタマーレビュー 2019年5月18日】 情熱的読書人間のないしょ話(1490)

東京・荒川、足立の千住を巡る散歩会に参加しました。小塚原回向院には、橋本左内、鼠小僧次郎吉、高橋お伝の墓があります。延命寺では首切り地蔵が祀られています。浄閑寺は、遊女の投込寺(なげこみでら)と呼ばれています。円通寺には、江戸寛永寺の総門(黒門)が移設されています。新門辰五郎の追弔碑があります。千住大橋辺りから、松尾芭蕉が河合曽良を伴って、『おくのほそ道』に旅立ちました。千住宿には多くの問屋がありました。この地にあった穀物問屋・藁屋・橋本家に、安藤昌益の『自然真営道』の原稿本101巻が保存されていました。この地で、森鷗外の父・森静男が橘井堂医院を開業し、若き鷗外も住んでいました。金蔵寺には飯盛女(遊女)の供養塔があります。この地には、勝専寺、絵馬屋・吉田家、横山家、名倉医院もあります。清亮寺には解剖人墓があります。千住には、驚くほど歴史がぎっしり詰まっています。因みに、本日の歩数は23,762でした。

閑話休題、『詳説世界史』(木村靖二・佐藤次高・岸本美緒著、山川出版社)には、こう記されています。「ローマは、地中海西方を支配していたフェニキア人植民市カルタゴの勢力と衝突し、3回にわたるポエニ戦争(前264~前146年)がおこった。カルタゴの将軍ハンニバル(前247~前183年)がイタリアに侵入してローマは一時危機におちいったが、スキピオ(前235頃~前183年)の活躍などで戦局を挽回し、ついに勝利をおさめた」。

ハンニバル戦争』(佐藤賢一著、中公文庫)は、ローマの将軍、プブリウス・コルネリウス・スキピオが宿敵・カルタゴの将軍、ハンニバル・バルカに勝利を収めるまでを描いた歴史小説です。

「(若いスキピオは)うろたえた――ハンニバルは強い。やはり、強い。まぐれでも、偶然でも、天候のおかげでさえなく、ハンニバルのカルタゴ軍はその実力でローマ軍を倒せるのだ。いや、単に負かすだけでなく、全滅さえ強いることができるのだ。怒りが噴き上げた――全滅を強いる必要があったのか。いくら戦争でも、ここまでやるのか。敗戦に報復したいのなら、ただ勝てばよいではないか。万を超える命を奪わなくてもよいではないか。前の戦争でローマ軍は、カルタゴ人を皆殺しにしたとでもいうつもりなのか。人の道にも悖るハンニバル、きさま、ただでは済まさない」。

「スピキオは思い知った。姑息ではない。軽々しく嘲笑う余裕があったなら、そこで気づくべきだった。ローマ軍は押していたのではないと。浅はかな優越感に酩酊しながら、どんどん懐深くに取りこまれて、またしてもカルタゴ軍の罠に嵌められてしまったのだと。ハンニバルは底知れず恐ろしい男だ。わかっていた。わかっていた。しかし、どこかで目を逸らしていた。このままの自分たちでも通用すると思いたかったからだ。今に流されるまま、努力という努力もせずに、要は横着していたのだ」。

「ローマには絶望もできない――どれだけハンニバルが優れ、どれだけカルタゴが偉大であろうと、ローマに絶望することは許されない。たとえ待つのは、苦しみだけであるとしても」。

「『ハンニバルだ』。(スピキオに)閃きが訪れていた。そこにいたのは、最高の手本だった。兵法でも戦史でもない。ハンニバルに勝つには、ハンニバルに学ぶことだ。そうしてハンニバルになることだ。そう得心してからというもの、スキピオの勉強は書物からハンニバルに向けられるようになった。・・・いうまでもないことながら、広範な知見なくして、ハンニバルを理解することなどできない。ああ、あのカルタゴ人の戦術は、アレクサンドロス大王のそれに似ている。・・・いや、ハンニバルの戦いには独創がある。いや、いや、あの鮮やかな戦いぶりは恐らく、理屈ならざる感性とか感覚とかいったものまで総動員しなければ、決して遂げえないだろう。『やはり、ハンニバルは天才なのだ』」。

「スキピオには己の未熟を、いや、無能を、いやいや、どうしようもない凡庸を、誤魔化すことなく認める覚悟もあった。自分は天才ではありえないと、ハンニバルを学べば学ぶほど、動かぬ事実が突きつけられる。それでも戦わなければならないのだ。ローマ人であることに絶望できないかぎり、あのカルタゴ人をいつか必ず倒さなければならないのだ」。

「ハンニバルに会う、そう思うだけでスキピオは総身を緊張に襲われた。・・・最高の男だ。天才だ。半神だ。スキピオは心の別な部分では、ハンニバルを認め、敬い、憧れさえしていたのだ。会ってみたい。話してみたい。あの物凄い男と向き合い、言葉を交わし、いや、同じ空気を吸えるだけで、もう死んでも構わないとさえ思える。スキピオは(ハンニバルが申し入れてきた和睦のための)面談を承諾した」。ただし、会談は決裂し、最後の決戦の火蓋が切られ、ローマ軍の勝利で幕を下ろします。

本書のおかげで、遠い紀元前に生きたハンニバルとスキピオが身近に感じられるようになりました。