榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

大財閥の御曹司が首狩り族に首を狩られ、食べられたのはなぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1536)】

【amazon 『人喰い』 カスタマーレビュー 2019年7月3日】 情熱的読書人間のないしょ話(1536)

毎朝5時に起き出す女房から、もうヤモちゃん(ニホンヤモリの愛称)が来ているわよ、と報告あり。毎晩、キッチンに明かりが灯ると曇りガラスに現れるのに、どういうわけか、今日は一日中、張り付いているので、背面をカメラに収めることができました。ハンゲショウは花が地味なので、一部の葉が白くなって昆虫を誘うと、植物に造詣の深い柳沢朝江さんから教わりました。あちこちで、さまざまな色合いのペチュニアが咲き競っています。七夕が近づいてきましたね。因みに、本日の歩数は10,775でした。

閑話休題、『人喰い――ロックフェラー失踪事件』(カール・ホフマン著、奥野克巳監修、古屋美登里訳、亜紀書房)は、衝撃のノンフィクションです。気の弱い人は読まないほうがいいでしょう。

1961年、大財閥のネルソン・ロックフェラーの長男で23歳のマイケル・ロックフェラーが旅行先のニューギニアで消息を絶ち、父親たちによる大掛かりな捜索が展開されたものの、マイケルの行方を知ることはできませんでした。

この失踪事件から50年後、現地を訪れた著者は、マイケルが接触したと思われるアスマットの人間たちと1カ月間、生活を共にすることで、遂に事件の真相に辿り着くことができたのです。

遥か沖合で双胴船が荒波を受けて転覆したため、泳ぎに自信のあるマイケルは、浜辺を目指して泳ぎ出します。「(アスマットの)男たちは(浜辺に近づいた)マイケルを囲んだ。マイケルは激しく呼吸しながらも笑顔を見せた。・・・フィンとペプがマイケルの両腕をつかんで浜辺のほうへ引っ張っていった。・・・アジムはペプを見た。『おまえがやれ』とアジムは言った。・・・ペプは躊躇わなかった。彼のまわりには身内や仲間がいた。この地位を得たのは非常に勇敢で、(敵の)大勢の男を殺し、たくさんの首を狩ってきたからだ。ペプは吠えると背中を丸め、水面に浮かんでいる白人の男の肋骨のところへ槍を深く突き刺した。マイケルは悲鳴をあげ、獣のような低い唸り声を絞り出した」。

「フィンとペプとアジムが、マイケルの胸を地面から浮かせて、その頭を前に押しだし、首の後ろに斧を振り下ろした。マイケル・ロックフェラーは死んだ。アジムがその体をひっくり返し、喉を竹製のナイフで裂き、頭部を上から押しつけると、脊椎の骨がカツンと鳴った。人間も豚も、みな同じだ。マイケルは聖なる肉だった。・・・火はパチパチとはぜ、煙をあげ、燃え盛った。肉の塊がその中に置かれ炙り焼かれた。焼き上がると(50人の)男たちは黒くなった脚と腕を火から取り出し、骨から肉をこそぎ、ぽろぽろした白灰色のサゴ澱粉と混ぜて長い棒状のものにしてみんなで食べた」。

著者の関心は、アスマットによるマイケルの首狩りとカニバリズム(人喰い)が、なぜ行われたのかに向かいます。著者が到達した推論は、2つにまとめることができます。1つは、1958年にオランダ植民地統治官に襲撃されて5人の仲間を殺され、白人に対する復讐を心に期していたアスマットが、浜辺に泳ぎ着いた無防備の白人青年に遭遇し、首を狩り、肉を食べて、復讐の儀式を行ったというものです。もう1つは、アスマットが首を狩り、肉を食べるのは、「殺して自らの主張をし、相手を食べて自らの一部とするというアスマットの文化の精神を表す行為」だという文化人類学的考察です。