榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

証券業界というとんでもない世界の、とんでもない奴ら・・・【情熱的読書人間のないしょ話(31)】

【amazon 『ライアーズ・ポーカー』 カスタマーレビュー 2014年11月3日】 情熱的読書人間のないしょ話(31)

「NPOさとやま」の千葉県・手賀沼野鳥観察会に参加しました。秋の日差しを浴びながら、チュウヒ、モズ、セグロセキレイ、カワセミ、オオバン、カンムリカイツブリなど29種の野鳥を観察できたのですが、最大の収穫は、沼の中央辺りに突っ立っている杭に止まって水面を平然と眺めているミサゴ(英語ではオスプレイ)を発見できたことでした。この魚を捕食する大型の美しいタカは、私の地元では滅多に見ることができないからです。

閑話休題、現在の仕事がきつい、辛いと感じたとき、他業界の本を読むと恰好の気分転換になります。証券業界で蠢く金の亡者たちの凄まじい実態を、内部の人間が赤裸々に描いたドキュメント、『ライアーズ・ポーカー』(マイケル・ルイス著、東江一紀訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の生々しさ、面白さは、群を抜いています。

著者は、ウォール・ストリートとロンドンでソロモン・ブラザーズの債権セールスマンとして働き、勤めて2年目の27歳の時(1987年)には年俸22万5千ドルを稼ぐまでになっていましたが、この仕事は肌に合わないと、さっさと会社を辞めて、物書きになってしまった人物です。

「毎日毎日、トレーダーたちは同業のライバルよりうまくリスクを処理することで、腕のよさを証明する」。「トレーダーはソロモン・ブラザーズを代表して、市場で賭けをする。セールスマンはトレーダーのいわば伝令として、外の世界(機関投資家)との連絡役を務める。・・・優秀な債権トレーダーは、回転の速い頭と底なしのスタミナを持っている。彼らは1日に12時間、忙しいときには16時間、市場に目を凝らす。それも、債権市場だけではない。金融から商品にまたがる何十という市場を観察するのだ。・・・彼らは利益を尊重する。そして、カネを。カネへの執着、カネで買えるすべてのもの、カネに付随するすべての名誉への執着は、ことのほか強い」。トレーディング・フロアで成功を収める人間は、「まったく度しがたい人間だった。自分の昇進のためなら、平気でひとを踏みにじる。女性にはいやがらせをする。顧客など眼中にない。他人はすべて、愚弄する対象でしかないのだ。・・・仕事で凄腕をふるい続けているかぎり、善人か悪人かはこれっぽっちも問題にならない」。

「彼らが用いた策略のひとつは、借り手が損を承知で繰り上げ返済するような状況につけ込むことだった」。「さらに大きなぼろもうけの策は、住宅所有者の不合理な動きを先読みすることだった」。「というわけで、これまでになく洗練された分析法が、モーゲージ部に大金を運んできた。しかし、トレーダーの行状がそれに合わせて洗練されていったわけではない。市場の技術が一歩前進することに、彼らは人類の進化の過程を一歩後退する感じだった」。

「電話を使ってやれることはたくさんあるが、法律に触れない範囲で一番あくどいのは、なんといっても、面識もない相手に欲しくもないものを売りつけようとすることだろう」。「(先輩の)アレキサンダーは、世界の金融市場からカネを巻きあげるすべを知っていた。おまけに、セールスマンとして、自分が金融市場からカネを巻きあげるすべを知っているように見せかけるすべを知っていた」。「ぼくは彼ら(顧客)をあおりたて、大金を借りてこさせて、投機させた」。「彼(アレキサンダー)の言葉は、ソロモン・ブラザーズやウォール街の他社で成功を収めた人間たちの欲望の果てしなさを、的確にとらえていた」。

本書に実名で登場させられた彼らは、著者に苦情を申し立てなかったのでしょうか。