榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

組織史における3つの大革命とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1624)】

【amazon 『歴史からの発想』 カスタマーレビュー 2019年9月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(1624)

東京・世田谷と杉並の区境を巡る散歩会に参加しました。徳富蘆花の邸宅が残されている蘆花恒春園、粕谷八幡神社、天神社(第六天神社)、高井戸不動尊・吉祥院、浴風園を訪れました。天神社には、明和8(1771)年銘の石造りの狛犬が鎮座しています。因みに、本日の歩数は18,847でした。

閑話休題、ふと堺屋太一のことが気になって、書斎の書棚から『歴史からの発想――停滞と拘束からいかに脱するか』(堺屋太一著、日経ビジネス人文庫)を引っ張り出してきました。36年前の著作であるが、堺屋の発想は独自性があり、刺激的です。

とりわけ興味深いのは、「『組織史』3つの革命」です。

「私は現代的組織の基本形が、トップ、ナンバー2(補佐役)、スタッフ(参謀)、ライン(司令官)という4つによって構成されていると述べたが、こういう基本形が生れたのは比較的最近のことであり、それまでには実に長い歴史の経過が必要だった」。

「現代的な組織の基本形ができるまでに、組織史には3つの大革命があった。まず第1の革命を達成したのは秦の始皇帝である。彼が始めた郡県制という国家統治制度は、組織史上に最初の画期的飛躍をもたらした。・・・それまでは地域ごとの世襲制であったものを、中央からの任命制にし、任期が過ぎれば、その人の意思には関わりなく移動させる。・・・これによっていわばポストは個人から明確に分離され、組織の概念が明確になった。組織という自立した抽象概念が初めて生れたといってもいいであろう。これができたからこそ、組織内の所掌分担もまた可能になり、律令体制が生れるのである。この制度は名前は変ったが、実質的には漢に受け継がれ、10世紀頃、宋の時代に完成した」。

「世界の組織史上の第2の革命は10世紀頃、アラブのイスラム騎士団によるものである。このイスラム騎士団がやったのは、事務長(セクレタリー・ゼネラル)と技師長(チーフ・オブ・テクノロジー)の分離ということである。これは、所掌分担ではなく機能分業だ。それまでの組織はトップの下に10人の直属の部下がいても、その10人の間には明確で意識的な機能分業はなく、とにかく10人が協力して技術もやれば、事務もやる・・・というふうだった。しかし、このイスラム騎士団によって初めて、トップの下の意識的で明確な機能分業が生れ、それによって巨大事業の遂行は画期的に容易になった。そしてそれは十字軍に参加した神殿騎士団によってヨーロッパに伝えられ、ゴシック建築のように何十年もかけてつくられる大建築も可能になったのである」。

「第3の組織革命は、プロイセンで成立した参謀本部である。この参謀本部の生みの親はフリードリッヒ大王の参謀総長だったグスタフ・ゾーンだったといわれている。・・・そしてこの流れがシャルンホルスト、グナイゼナウなどに受け継がれ、モルトケによってドイツ参謀本部として完成される。このプロセスについては、渡部昇一氏の『ドイツ参謀本部』という名著があるが、参謀を初めて司令官から自立した専門家として意識し、軍隊組織内に位置づけたという意味では、私はグスタフ・ゾーンをドイツ参謀本部の生みの親といっても過言ではないと思う。・・・彼によって初めて組織史にスタッフ(参謀)という新しい役割が生れたのである」。大分以前に読んだ『ドイツ参謀本部』を読み直したくなり、早速、書棚から引き抜いてきました。