ソプラノ歌手の熱烈なファンである70歳のボート場管理人に奇跡が・・・【山椒読書論(531)】
【amazon 『黄昏流星群(32)』 カスタマーレビュー 2020年1月23日】
山椒読書論(531)
コミックス『黄昏流星群(32)――星楽のマドンナ』(弘兼憲史著、小学館)に収められている「星楽のマドンナ」は、熱烈なファンの思いが奇跡を起こす物語である。
ソプラノ歌手・押高葉子のコンサートの最前列には必ず、作業服姿の老人の姿があった。鯉ヶ淵ボート場の管理人・園田拓郎、70歳にとって、葉子は永遠のマドンナなのだ。「押高葉子の声が素晴らしい。単にパワフルというだけの声ではない。メリハリがあるんだ。透明感のあるピアニッシモ、優雅で豊かなフォルテッシモ。押高葉子の出現以来、私の頭の中には、いつも彼女の歌声が流れている」。
「でも、彼女の姿も、もうそんなに長くは見ることは出来ない。この仕事も7月一杯で終わるが、私の命も終わりそうだ。とうとう私もガンになりました」。
定年退職当日の7月31日、第1の奇跡が起こる。「あの・・・すみませんが、ちょっとだけボートに乗せていただけませんか? 出来れば、私と一緒にボートに乗っていただきたいんです」。「え? その声は・・・押高葉子だ。何故、ここに!?」。
ボートの上で、「あなた、いつも私のコンサートの時、最前列に座っている人でしょう」。「あ、はい」。「お礼というほどのものでもないのですが、あなたの前で一曲歌わせてください。聞いていただけます?」。「え!? あ・・・よ、よ喜んで!!」。「では、プッチーニの蝶々夫人からアリアを歌います」。「何てことだ、これは夢だ、夢に違いない。押高葉子が私のために歌っている。しかも、私の一番好きなプッチーニだなんて・・・」。
続いて、第2の奇跡が園田の体に、第3の奇跡が葉子の前途に・・・。
ページを閉じた私は、ほのぼのとした気分に包まれている。