谷崎潤一郎の妻・千代を巡り、谷崎と佐藤春夫が大喧嘩・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1780)】
ジンチョウゲが芳香を放っています。カワヅザクラ、カンヒザクラ(ヒカンザクラ)が見頃を迎えています。夕刻の太陽が霞んでいます。因みに、本日の歩数は10,460でした。
閑話休題、『文豪たちの悪口本』(彩図社文芸部編、彩図社)は、文豪たちが吐く悪口がてんこ盛りです。
とりわけ印象に残ったのは「谷崎潤一郎×佐藤春夫の章」で、谷崎潤一郎の妻・千代を巡る谷崎と佐藤春夫の往復書簡が取り上げられています。
谷崎と6歳年下の佐藤は大親友でした。谷崎は、理想の女性だと思った千代と結婚するが、一緒になると期待外れだったため、夫婦仲はよくありません。そこで、千代と離婚し、同居していた千代の妹・せい(『痴人の愛』のナオミのモデル)との再婚を目論みます。この経緯を身近で見ていた佐藤の、千代に対する同情心が、いつしか恋愛感情に変わっていきます。谷崎に自分の気持ちを正直に打ち明けた佐藤に、谷崎は千代と離婚すると約束します。しかし、せいが谷崎の申し出を断ったため、谷崎は千代との生活をやり直すことにします。これに怒った佐藤は谷崎に絶交を宣言します。往復書簡は、この時期にやり取りされたものです。
佐藤から谷崎への手紙の一節。「要するに君はおせいちゃんに一ぱい食わされたのだ」。
谷崎から佐藤への手紙。「僕がおせいの言葉を信じたのは軽率だった」。
谷崎から佐藤への手紙。「君がお千代によこした手紙を見た、お千代が君に通信していいか悪いかは別問題として、ああ云うことを直接僕の妻に云ってよこすこと、それ自身が僕には面白くない。君はああ云うことをして、それで僕が少しでも感情を害しないと思っているのだろうか。僕に対して疾(やま)しくないのだろうか。そうだとすれば余程不思議だ」。
谷崎から佐藤への手紙。「未だに君が僕を友人として取り扱う以上、その友人の妻たる人を思っていること、並びに今後もその人との通信を継続して、いつまでもそれを忘れまいとすることを、而も僕に無断で、僕の妻に云って来ることが、不正でなくて何だと云うのだ」。
谷崎から佐藤への手紙。「僕はこの手紙を、君に恥をかかせるつもりで書いた、君がこれを読んで、良心に顧みて、私(ひそ)かに顔を赧(あか)くすることを望んでいる」。
その後、紆余曲折を経て、佐藤は、谷崎と離婚した千代と結婚します。