恐ろしい疫病で国民の半数が死んだというのに、国王は籠もった城内で豪華な仮面舞踏会を催したとさ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1819)】
ウグイスが囀っている高木の下で30分ほど粘ったが、動きが敏捷なため、腹部と足しか撮影できませんでした(涙)。シジュウカラ、カワラヒワ、ハクセキレイ、ムクドリも囀っています。ハナミズキの白い総苞が目を惹きます。ジャーマンアイリスが咲き出しました。我が家の庭の片隅で、白いシバザクラがひっそりと咲いています。因みに、本日の歩数は14,838でした。長時間いた森の中では、誰にも出会いませんでした。
閑話休題、親友・小栗作郎の「こういう時だからこそ、あなたの『ペスト』と『赤死病の仮面』の読後感が知りたい」という甘言に乗せられて、『黒猫・アッシャー家の崩壊――ポー短編集Ⅰ ゴシック編』(エドガー・アラン・ポー著、巽孝之訳、新潮文庫)に収録されている『赤き死の仮面』を読みました。この作品は、黒死病(ペスト)をもじった『赤死病の仮面』と訳されることが多いのだが、本書の訳者は、敢えて『赤き死の仮面』としています。
「『赤き死』なる疫病が国中を蝕むようになってから、もうずいぶん長い時が経つ。これまでいかなる疫病も、これほどの殺戮、これほどの災厄をもたらしたことはない。鮮血はその化身にして紋章だった――それは真紅にして恐怖の象徴だった。まずきりきりと身体が痛み始め、いきなり目眩に襲われ、やがて毛穴という毛穴からおびただしい血があふれだし、ついには息絶える。犠牲者の身体や顔が真紅の斑点だらけになれば、それが疫病の証となり、いっさいの救援も、仲間たちの同情すらも受けられなくなっていく。そしていったん発症したら最後、病が進行し最終目的を遂げるまでには、ほんの30分ほどしか要しない」。
「ところが国王プロスペローはといえば明朗闊達、しかも才智に長けていた。その国土から臣民の半ばほどが死に絶えてしまったのちのこと、彼は自身の宮廷に仕える騎士たち、貴婦人たちのなかからまだ矍鑠として陽気な友人たちを数えきれないほど招き寄せ、彼らと連れ立って、自身の暮らす巨大な城郭のうちでも奥の奥へと引きこもった」。
「城の奥へ隠遁してから5、6ヶ月が過ぎ去ろうとしたころ、そして城外では疫病がいつになく猛威をふるっていたころのこと、プロスペロー王は大勢の友人たちをもてなすべく、異常なほどに豪華な仮面舞踏会を催した」。
それまで全く目立たなかった、ある仮面の人物に注目が集まり、反感、驚愕、恐怖、憎悪、嫌悪感が露わになります。「その人物は長身痩躯で、頭のてっぺんから爪先まで、経帷子をまとっていたのだ。その表情を覆い隠している仮面は死後硬直の顔そっくりに似せているため、どんなにじっくり観察しても偽装とは気づきにくい。だがこうした出で立ちもすべて、まわりのほうも気の狂れたような仮装者たちであるから、受け入れられずとも耐えきれる範囲内であった。ところがこの無言劇役者が限界を踏み外しているのは、『赤き死』の化身を気取っているところにある。その衣装は血にまみれ、広い額及び顔の全面に、恐るべき鮮血が斑点を成していたのだから」。
怒りに任せて、この闖入者に向かって短剣を高く掲げたプロスペロー王に何が起こったか、そして、この仮装者の正体は――あまりの恐ろしさに、私には、どうしても口にすることができません。