福島の被災地の人々の呻き声が聞こえてくる写真集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(381)】
散策中に、羽化直後のアゲハチョウほどの大きさの見馴れぬチョウを見つけました。何というチョウなのか気にかかっていたのですが、生物観察会の仲間で昆虫に造詣の深い岡田啓治氏から外来種のアカボシゴマダラの春型と教えてもらい、すっきりしました。夏型は後翅に赤い紋があるが、春型にはないとのことです。緑が濃くなった森では、ウグイスが盛んに囀っています。あちこちで、さまざまな色のクレマチスの花を見かけました。因みに、本日の歩数は10,943でした。
閑話休題、『かさぶた――福島 The Silent Views』(中筋純著、東邦出版)は、2011年3月11日以降、福島の原発被災地に通い続けている著者の大型写真集です。
●大災害は地形を原始の形態に戻すという説もある。海水浴客で賑わった熊川河口部は大津波に飲み込まれ湿地帯に戻ったものの、津波で流され打ち寄せられた遺品が散乱している。いまだに娘を捜し続ける父もいるという(2013年11月)。
●富岡町海岸部、仏浜を埋め尽くすフレコンバッグ。福島原発事故のその後を象徴する光景となった。2015年末現在、双葉、大熊町内の仮置き場に順次搬送されつつある。奥に見える白い建屋は新設された廃棄物の減容化施設(2015年10月)。――見渡す限り、黒いフレコンバッグが隙間なくびっしりと置かれている異様な光景には、思わず息を呑んでしまいました。
●イカナゴやシラスの水揚げが豊富で漁師町として栄えた浪江町請戸。津波で壊滅的被害を受け、原発事故により直後の救出、捜索活動が中止された。かろうじて骨組みを残した家屋が数件墓標のように残っている。現在、放射性廃棄物減容化施設が建設、稼働中だ(2013年12月)。
●5年の時を経て砂漠と化したビニールハウス内部。植えてあったキュウリ、震災後生えた雑草も水分が抜けきって木化している。死屍累々白骨の空間(2014年3月)。
●冨岡町スーパーマーケット内部。冨岡町、楢葉町、川内村の日常生活を支えた店内はマグニチュード9の爪痕と野生動物が跋扈した足跡が色濃く残る。地獄絵図と強烈な異臭を前にかえって鈍感になる自分がいた(2915年10月)。――2ページ見開きの乱雑の極みのような暗いトーンの写真から、耐え難い異臭が漂ってくるかのような錯覚を覚えました。
●赤錆びた遊具に草原と化したグラウンド。僅か2年でここまで姿を変える人間の現世の儚さよ。南相馬市小高区金房小学校(現在は除染されています。2013年10月)。
●浪江町内のJR常磐線を覆い尽くすセンニンソウ。殺伐とした景観に潤いを与える可憐な花は無機質なバラスやレールをも覆い尽くす。命の連続性に心を救われる(2015年9月)。
福島の被災地の人々の呻き声が、どのページからも聞こえてくる写真集です。