榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

文学に興味がないのに、部員が一名だけという文芸部の顧問にされてしまった女教師と、男子部員との関係・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1831)】

【amazon 『図書館の神様』 カスタマーレビュー 2020年4月18日】 情熱的読書人間のないしょ話(1831)

アルストロメリアが黄色い花を咲かせています。

閑話休題、『図書館の神様』(瀬尾まいこ著、ちくま文庫)は、飲み心地が爽やかなサイダーのような青春小説です。

「私」、早川清(きよ)は、地方の小さな私立大学卒業後、海の近くの鄙びた高校の教師(1年契約の講師)になりました。高校時代にバレーボールに熱中した経験から、バレーボール部の顧問を狙っていたのに、文芸部の顧問にされてしまいます。

「自分が生徒の頃には図書室なんてまったく寄りつかなかった。昼休みはいつも体育館で過ごしたし、読書感想文の宿題が出る夏休み前に本を借りる程度だった。なのに、どうして私が文芸部の顧問なのだ。担当教科が国語だから? だったら困る。別に国語が得意なわけじゃない。文学なんてまったく興味がない。小説どころか雑誌や漫画すら読まない。確かに私は文学部出身だ。でも、大学進学を間近に進路変更をした私は、日本人が日本語を勉強するという最も簡単そうな道を安易に選んだだけだ」。

「文芸部の部員はたった一名だった」。「(三年生の)垣内君は本当に川端康成の本を開き、読み始めた。本気で文学をやりたいと思う高校生がいることにも、川端康成を自ら進んで読む若者がいることにも度肝を抜かれる」。

清は、垣内との部活動を通じて、少しずつ文学の世界に親しみを感じていきます。そして、大学生時代から続いている不倫にピリオドを打ちます。

卒業式を控えた発表会で、文芸部代表として垣内が体育館の檀上に立ちます。「垣内君はみんなを見回しながら、堂々と語った。『文学を通せば、何年も前に生きてた人と同じものを見れるんだ。見ず知らずの女の人に恋することだってできる。自分の中のものを切り出してくることだってできる。とにかくそこにいながらにして、たいていのことができてしまう。のび太はタイムマシーンに乗って時代を超えて、どこでもドアで世界を回る。マゼランは船で、ライト兄弟は飛行機で新しい世界に飛んでいく。僕は本を開いてそれをする』。垣内君はそう言うと、いつもの顔に戻って、照れくさそうに『以上です』と頭を下げた。しばらくの沈黙の後で、拍手が響いた。垣内君は拍手にお辞儀で答えると、私に『どうだった?』って合図を送った。私はにっこり笑ってみせた」。

都立富士高時代に入部した文芸部は、男子生徒は私一人だけだったことを、懐かしく思い出しました。