榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

中国文学のエッセンスをつまみ食いできる本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2514)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月6日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2514)

ジンチョウゲ(写真1~3)が咲き始めています。因みに、本日の歩数は11,094でした。

閑話休題、『中国文学をつまみ食い――<詩経>から<三体>まで』(武田雅哉・加部勇一郎・田村容子編著、ミネルヴァ書房、シリーズ・世界の文学をひらく)から、他では得難いつまみ食いをすることができました。

「老荘思想という名から、荘子は老子の思想を引き継いだと思われがちであるが、『荘子』の『内篇』が『老子』よりも先に成立したとされる」。私も、老→荘という流れだと思い込んでいました。

「李白の詩はロマンティックで躍動的だ。『白髪三千丈、愁いに縁りて箇の似く長し』、『朝に辞す白帝彩雲の間、千里の江陵一日にして還る』など、一度で心をつかまれる表現は数え切れない。・・・杜甫から個人の日常が文学の中心的な内容になるという。加えて言えば、李白は古典の中から言葉を巧みに選び、思いがけない組み合わせで鮮やかに詩的世界を現出するが、一方杜甫は深い古典の教養に根ざしつつも、現実を描き出すためには造語をし、口語を使用する。・・・詩風は異なるものの、李白と杜甫がそれぞれ開いた新たな境地は、次の中唐以降の文学に大きな影響を与えることになる。作詩において華麗な文辞のみによらず、温かくも厳しい眼差しで現実を直視したからこそ、李杜の詩は普遍性を持ち得たと言えよう」。李白と杜甫の特色が鮮やかに対比されています。

「(『三国演義』は)史実の流れに沿って進む話の中に興趣あふれる虚構が散りばめられており、その巧みな配分は清代から『七実三虚』と評されている。架空の人物も大勢登場するが、悪目立ちすることはなく、あくまで実在の人物を中心に話が動く。劉備の蜀を話の中心に据えてはいるものの、他勢力の人物も個性豊かに描きわけられて多彩に活躍する。中でも曹操の描写は出色で、覇道のためには手段を選ばぬ非情さ、野望を押し通せるだけの卓越した才能、高く評価した人材への執着と愛憎、更には後世の文学に多大な影響を与えた詩人としての側面など、単純なやられ役や憎まれ役にはとどまらない多面的な造形に成功している」。『三国演義』が、私の好きな曹操に、これほど好意的だったとは気がつきませんでした。

「(『金瓶梅』の主人公・西門慶は)その日その日を愉快に暮らそうとするがゆえに、(妻や妾の)女たちが采配を揮う家庭内の戦争も勃発する。西門慶は、内外のトラブルにあたふたしては、なんとか乗りきって、ふたたび日常を取りもどす。もとより好色漢の西門慶のことであるから、かれらの性生活もおのずと念入りに描写される。・・・女たちの描写は、じつに見事である。邦訳を作った小野忍は、夫人たちをそれぞれ概括して、正妻の呉月娘は賢夫人型、第二夫人の李嬌児は打算型、第三夫人の孟玉楼は善人型、第四夫人の孫雪娥は破滅型、第五夫人の潘金蓮は淫婦型・じゃじゃ馬型、第六夫人の李瓶児は純情型としているが、これには異論もあるだろう」。単なるポルノグラフィではないようなので、私の「読むべき本」リストに加えました。