榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

上品で弱々しく美しい人妻に、失恋を根に持つ陰獣から脅迫状が送られてきた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1847)】

【amazon 『陰獣』 カスタマーレビュー 2020年5月4日】 情熱的読書人間のないしょ話(1847)

カラスノエンドウ(ヤハズエンドウ。写真1~3)、エンドウの栽培種・キヌサヤ(絹さや。写真4~5)、ソラマメ(写真6)の花が咲いています。明日は端午の節句ですね。

閑話休題、書斎の書棚から『陰獣』(江戸川乱歩著、角川文庫)を引っ張り出してきて、久しぶりに再読しました。

探偵小説家の「私」は、上野の帝室博物館で、「上品で優しくて弱々しくて、さわれば消えてしまいそうな美しい」若い女性と知り合います。しかし、博物館を出て上野の山内を歩いているあいだに、私は妙なものを発見してします。「彼女の項には、おそらく背中の方まで深く、赤痣のようなミミズ脹れができていたのだ」。

この女性、小山田静子という人妻と文通を重ねて数か月が経った頃、彼女から相談されます。「静子は恥かしさと悲しみのために、あのまつげの長い眼をふせて、そこに一ぱい涙さえためて、小さな声で細々と語るのであった。『(夫の)小山田は(静子が十八歳の時に恋仲となった)平田一郎の名をどこかで聞いていて、いくらか疑っていたようでございましたが、わたくし、あくまで小山田のほかには男を知らないと言い張って、平田との関係を秘し隠しに隠してしまったのでございます。そして、その嘘を今でもつづけているのでございます。・・・七年前の嘘が、それも決して悪意でついた嘘ではありませんでしたのに、こんなにも恐ろしい姿で、今わたくしを苦しめる種になりましょうとは』。静子はそういって、その平田からきたという数通の手紙を見せた」。それらは、静子に捨てられた恨みつらみを書き連ねた脅迫状だったのです。平田は、後年、大江春泥という筆名の、残虐な描写を得意とする探偵作家として売れっ子になり、人嫌いで誰にも会わないことで知られていたが、その後、ぷっつり行方を晦まして現在に至っています。

「(そのほかの平田のおどかしの手紙にも)復讐の呪詛の言葉のあとに、静子の在る夜の行為が、細大洩らさず正確な時間を付け加えて記入してあることに変りはなかった。殊にも、彼女の寝室の秘密は、どのような隠微な点でも、はれがましくもまざまざと描き出されていた。顔の赤らむような或る仕草、或る言葉さえもが、冷酷に描写してあった」。

平田から、静子を愛している夫の命を奪い、次に静子も殺すという脅迫状が送られてきます。「(私と静子の)二つの防禦方法は、その翌日から実行されたのだが、しかし、陰獣大江春泥の恐るべき魔手は、そのような姑息手段を無視して、それから二日後の三月十九日深夜、彼の予告を厳守し、ついに第一の犠牲者を屠ったのである。小山田六郎氏の息の根を絶ったのである」。

静子に惹かれている私は小山田氏殺害事件の解明に乗り出し、恐るべき結論に達します。しかし、その後も、どんでん返し、またまた、どんでん返しが続きます。その真実は、とても信じ難く、あまりにも淫靡なので、私には、どうしても口にすることができません。