嫌われもののカメムシたちと小学生たちの、本当にあった不思議な話・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1909)】
エサキモンキツノカメムシの成虫(写真1、2)、3齢幼虫(写真3)、チャバネアオカメムシの終齢幼虫(写真4、5)、ノシメトンボの雄、殻径4.5cmのヒダリマキマイマイをカメラに収めました。素早く動き回るエサキモンキツノカメムシの撮影中、一瞬、姿を見失ったと思ったら、私に飛び移っていました。
閑話休題、こういう絵本が存在していることを知り、嬉しくなってしまいました。『わたしたちのカメムシずかん――やっかいものが宝ものになった話』(鈴木海花文、はた こうしろう絵、福音館書店)は、小学生たちとカメムシを巡る実話に基づいています。
「『カメムシ』ときくと、たいていの人が『わっ、あの臭い虫か』と顔をしかめます。せんたくものについたり、家のなかにはいってきたり、農作物をダメにしたり――どこでもきらわれている『やっかいもの』として有名です。ところが、この『やっかいもの』のカメムシが、岩手県の葛巻という町の小学校に想像もしなかったような出会いと発見をもたらしてくれた、というのです。いったいどうしてそんなことになったのか、おはなししましょう。葛巻町は、人口が7000人くらいという山あいの町です。この町に全校児童が29人というちいさな小学校があります」。
「ある春の朝のこと。子どもたちといっしょに教室の前の廊下を掃除していた校長先生は、チリトリのなかにはき集められたカメムシを見て、思いました。『あら、ひとくちにカメムシと言っても、よく見るといろんな種類がいるのね』」。
「校長先生は朝礼の時間に、みんなにこう提案しました。『いやなにおいで私たちをこまらせるカメムシ、だれも好きとは言いません。とてもやっかいな虫です。でも葛巻にはたくさんカメムシがいますね。カメムシにはいろんな種類がいるようです。よく見ると形や色がちがうし、○○カメムシ、のように種類によってそれぞれ名前があるようです。私も知らないのでいっしょにしらべてみませんか? みんなで『カメムシはかせ』になりましょう!』」。
「カメムシを見つけたら写真をとり、図鑑で名前をしらべ、見つけた日時や場所、気がついたことなどの記録とともに、標本としてポリ袋にいれたカメムシを廊下の壁にはりだすことにしました。名前がわかった1種目のカメムシは、『クサギカメムシ』という名前でした。そして翌日には2種目『スコットカメムシ』が見つかりました。・・・しらべながら迷ってしまうものもありました。『スコットカメムシ』と『ツマジロカメムシ』はどちらもむらさき色に光るとてもきれいなカメムシですが、この2つはそっくり。うーん、どっちかな?」。
「こうして廊下の壁にはりだされるカメムシの数は、日をおうごとにふえていきました。自分の目で見つけたよろこびが、もっと見つけたいという気もちをかきたてます。数がふえるにつれて、学校にある図鑑にはのっていないカメムシもでてきました。カメムシしらべを、みんなが心から楽しんでいるようすを見た校長先生は、カメムシを専門に研究する人たちがつかう、日本でいちばんたくさんカメムシがのっている図鑑を買ってしらべることにしました」。
「(冬)廊下にはりだされたカメムシは30種をこえていました。これを見ていた子どものひとりが、声をはずませて言いました。『せんせー、カメムシはぼくたちの宝ものだねっ』。この言葉をきいた校長先生はかんがえました。臭くてイヤだっただけのカメムシが、今では『宝もの』に思えるようになった――そうだ、今年見つけたカメムシの記録をまとめて、わたしたちのカメムシずかんをつくったらどうかしら?」。
「そうして、自分たちの見つけたすべての種がのっている手づくりの『カメムシずかん』ができあがり、子どもたちにも先生にも、みんなに一冊ずつ配られたのでした」。
こういう経験をした子どもたちは、きっと生物好きになり、科学の世界に興味を広げていくことでしょう。