獲得形質は遺伝するか否か、微妙な状況になってきた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2080)】
明るい陽光下のカケス(写真1~3)を撮影できたのは、私にとって初めてのことです。寒い朝9時からかっきり2時間、林の中の一箇所に踏み止まり、数羽のウソの群れ、数羽のアトリの群れを観察することができました。ウソの雌(写真4~6)、アトリの雄(写真7~9)、モズの雌(写真10、11)、コゲラ(写真12~16)をカメラに収めることができました。因みに、本日の歩数は11,725でした。
閑話休題、『進化38億年の偶然と必然――生命の多様性はどのようにして生まれたか』(長谷川政美著、国書刊行会)で、とりわけ興味深いのは、「獲得形質は遺伝するか」、「性選択はどのように働くか」、「鳥類は恐竜の生き残り」の3つです。
●獲得形質は遺伝するか――。
「エピジェネティックな変化が進化的に意味をもつためには、それが生殖細胞を通じて子孫に継承されることが必要である。ところが、個体の一生のあいだに蓄積したエピジェネティックな変化は、たいてい次の世代がスタートする受精卵の段階で初期化される。エピジェネティックな変化は、個体がその一生のあいだに獲得したものだから、これが子孫に伝えられるとしたら、獲得形質が遺伝するということになる。獲得形質の遺伝は、19世紀のはじめにラマルクが唱えた説として有名である。もともと首が短かったキリンの祖先が、高い枝の葉を食べようと首を伸ばすうちに、世代を重ねるにつれて次第に現在のキリンのように長い首になったという説明である。しかしながら、20世紀の遺伝学では、そのような形質が遺伝する機構がないということで、否定されてきた。またキリンの長い首については、獲得形質の遺伝を考えなくても、ダーウィンやウォーレスが主張したように、自然選択で十分説明できると考えられる。他の個体よりも少しでも首が長くなるような遺伝的な形質をもった個体は、高い枝の葉を食べるのに有利なために、正の自然選択の結果、多くの子孫を残すことができ、長い年月のあいだにキリンの首は現在のように長くなったのだ。しかし近年、エピジェネティックスの研究が盛んになるにつれて、エピジェネティックな変化が世代を超えて継承される可能性が活発に議論されるようになってきた」。
「最近は、親が一生のあいだに獲得した形質が子や孫に遺伝することを示唆する研究が現れている。卵子と精子が結合して受精卵ができるところから新しい世代がスタートするが、その時点でそれぞれの生殖細胞のDNAはクロマチンのかたちで折りたたまれており、それぞれのエピジェネティックな状態を保持している。受精後にはそれが初期化されるのだが、これが完璧であれば、獲得形質が遺伝する余地はない。しかし、実際には初期化を免れるエピジェネティックな変化が存在することがわかってきたのだ。具体的に生殖細胞の変化としてとらえられ、しかも初期化を免れる機構の詳細が明らかになったわけではないが、エピジェネティックな変化が遺伝していると考えられる例があるのだ。従って、原理的にはラマルク的な獲得形質遺伝の余地があることになる。このようなエピジェネティックな変化が実際の進化にどのような役割を果たしているかという問題は、生物進化学の今後の大きなテーマである」。
●性選択はどのように働くか――。
「生存する上でいかに不都合で重荷になっても、『美』を追求する配偶者の求めに応じて突っ走ってしまうというダーウィンの性選択の考えは、多くの人にとってあまりにも耽美主義的で不健全な退廃に映ったであろう。そのようなことが起ったら、せっかく自然選択で獲得した適応的な形質が台無しになってしまう。性選択の考えは、ダーウィンの不謹慎でもっとも危険な思想だった。・・・ダーウィンの主張の中で最後までなかなか受け入れられなかったのが、性選択であった」。
「空を飛べなかった非鳥恐竜(鳥類以外の恐竜)のアンキオルニスも派手な装飾を持っていたことが明らかになり、羽が配偶者にアピールするために進化した可能性が浮上してきたのだ。ふわふわの羽毛では、配偶者にアピールするような模様を描くのは難しい。プラムによると、平らなキャンパスを進化させたことによって、はじめてそこにいろいろな模様を描くことができるようになったという。最初保温のために進化した羽毛が、性選択によっていろいろな模様を描けるような平板状の羽に進化し、それがたまたま飛ぶための翼として使われるようになったのではないか。・・・現在1万種を超える鳥類の繁栄を支えている飛翔のための翼は、もともとは配偶者を獲得するために派手な模様を描くためのキャンパスとして進化した可能性があるのだ」。この説得力のある仮設には、目から鱗が落ちました。
●鳥類は恐竜の生き残り――。
「かつて気嚢は、鳥類がエネルギーをたくさん消費する飛翔能力を手に入れる際に、進化させたと考えられていた。気嚢は柔らかい組織なので、化石としては残らないので、恐竜の気嚢が直接確かめられているわけではない。しかし、鳥類で気嚢を収めている骨の空間が恐竜でも見つかることから、恐竜が気嚢をもっていたと考えられるのである。・・・(分子系統学の最新の成果から明らかになったことであるが)鳥類は獣脚類恐竜の中でもティラノサウルスに近縁なディノニクスと共通の祖先から進化したことになる。鳥類は恐竜の中から進化したということである。このことを受けて最近では鳥類も恐竜として分類し、鳥類以外の恐竜を『非鳥恐竜』と呼ぶようになってきた。恐竜は絶滅したのではなく、鳥類として現在も繁栄を続けているのだ。中生代最後の6600万年前に非鳥恐竜が絶滅したあとに続く新生代は、われわれ哺乳類の時代と呼ばれることがあるが、種数に関しては恐竜の生き残りである鳥類のほうが多い」。