榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

平凡な日常生活に潜む犯罪の恐怖・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2119)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年1月31日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2119)

クロガネモチがびっしりと実を付けています。さまざまな色合いのサクラソウが咲き競っています。

閑話休題、短篇推理小説集『妻は忘れない』(矢樹純著、新潮文庫)に収められている『戻り梅雨』は、楽しめました。

シングルマザーとして娘と息子を育て上げた「私」は、保育園の給食室の管理栄養士として働いています。娘は都内の短大を卒業し、今は千葉県内のスポーツジムのインストラクターとして一人暮らしをしています。

都内の大学に通う息子の哲生は、「一八〇センチ近い長身だが、猫背で細身な体つきのせいで、どうしても頼りなく見える」。

「三月の下旬に突然、哲生から大学を辞めたいと打ち明けられた。結婚したい女性がいて、彼女を養うために働くつもりだというのだ。夕食のあとに思いつめた顔で訥々と告げられた時は、驚きのあまり言葉が出なかった。哲生はまだ大学二年生で、将来はIT関連の仕事がしたいからと情報学科のある国立大学に入学し、これまで真面目に勉強してきたのだ」。しかも、相手の女性は、哲生より7歳も年上のシングルマザーだというではありませんか。

哲生の恋人、化粧っ気のない地味な出で立ちの佐山美玲が幼い娘を連れて、我が家を訪ねてきました。「美玲は、一児の母でありながらまだ学生の哲生と恋愛関係になったことを改めて詫びると、アルバイトを辞めたことと、今後は哲生と会わないことを告げた」。

それから暫く経ったある日、私の勤め先に突然、思いがけない電話がかかってきます。「『川崎西警察署の津島と申します。本日午後三時に市内の佐山美玲さん宅で、美玲さんが怪我をして重体となっているのが発見されまして、その件で哲生さんから参考人として事情を聞いております。ご家族のお話も伺いたいので、お手数ですが、これから署の方へおいでいただけますか』」。

信じられない結末が待ち構えています。