榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

毎年の大河ドラマが生まれるまで――制作陣の本音溢れる証言集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2136)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年2月17日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2136)

あちこちで、ウメ、シダレウメが咲き競っています。

閑話休題、『大河ドラマの黄金時代』(春日太一著、NHK出版新書)は、NHKの大河ドラマのファンには見逃せない一冊です。

毎年の大河ドラマの企画はどのように生まれたのか、キャスティングはどのようにして組まれたのか、現場ではどのように撮影していたのか、そして、作り手たちはどのような思いを込めたのか――が、各作品の制作に携わったプロデューサー、ディレクターの証言で構成されているからです。

大河ドラマの裏側にも、制作陣の人間臭いドラマがあったことが、臨場感豊かに伝わってきます。

●『花の生涯』(1963年)――
「『みんなが見たくなるドラマ』という長澤の狙いは、達成されました。スタッフちちが無理に無理を重ね、創意工夫をし、大河ドラマはなんとか船出をすることができたのです」。

●『赤穂浪士』(1964年)――
「大原の言葉の通り、『赤穂浪士』は前作を上回る大ヒットを遂げました。高視聴率を記録し続け、終盤の11月29日の放送では50%を超えています。芥川也寸志の作曲したテーマ曲は以降の『忠臣蔵』の象徴的な存在となり、長谷川一夫のセリフ『おのおの方』は流行語となります。長澤の狙い通り、『国民的な』大衆娯楽として毎週日曜日の夜に視聴者を釘づけさせることに成功したのです」。

●『太閤記』(1965年)――
「『大型娯楽時代劇』として『娯楽性』を前面に打ち出してスタートした大河ドラマは、吉田直哉の手により現代性と歴史的教養を重視する『歴史ドラマ』へと変化していきます」。

●『樅ノ木は残った』(1970年)――
「かなり冒険的なテーマ選びとなった本作ですが、大河としてはこの時期の合格ラインとなる平均視聴率20%を超えることに成功します。親子の情や血沸き肉躍る合戦が描かれる『天と地と』(1969年)に比べて、地味で難しい内容である『樅ノ木が残った』が多くの視聴者の関心を引いたということは、それだけ大河ドラマという枠自体が定着しつつあることを示すものでした」。

●『新・平家物語』(1972年)――
「本作は以降の大河の描き方に大きな影響を与えています。それは二点ありました。その一つは、時代の激動だけでなく主人公たちの暮らす『ホーム=家庭』の様もていねいに描くようにするということ。それからもう一つは、役者の芝居がしっかりしていれば、無理にスペクタクルな映像を撮らずともドラマのダイナミズムは成り立つということ。これらの手法は、いずれも後の大河制作におけるフォーマットの一つになっていきました」。

この他、『国盗り物語』(1973年)、『風と雲と虹と』(1976年)、『草燃える』(1979年)、『おんな太閤記』(1981年)、『独眼竜政宗』(1987年)など、えっ、あの作品の舞台裏で、そんなことがあったのかという驚きの連続です。