榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

日本の伝統色を通じて、四季の風物詩を愉しむためのガイドブック・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2144)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年2月25日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2144)

あちこちから、ウメ、シダレウメの芳香が漂ってきます。

閑話休題、『日本の伝統色を愉しむ――日々の暮らしに和の彩りを』(長澤陽子監修、飛鳥新社)は、日本の伝統色を通じて、四季の風物詩を愉しむためのガイドブックです。

春――
●真紅(しんく)=かつて赤系の染料には、ベニバナのほかにアカネやスオウといった植物が使用されていました。「真紅」は、とくに貴重な染料であったベニバナで染めたことを強調している色名です。紅色よりも濃い色あいとなっています。

●萌木色(もえぎいろ)=春の萌え出る若葉のような色をさし、平安時代から用いられてきました。黄緑色をあらわす、代表的な伝統色ともいえます。芽生える命の喜びを感じさせる春の色として愛されるとともに、エネルギッシュな若さの象徴として、若武者の鎧などにも使用されていたそうです。「萌黄色」と表記される場合もあります。

●樺色(かばいろ)=「樺」とは、ヤマザクラの一種であるカバザクラの樹皮のことです。この名前の示す通り、「樺色」はサクラの幹のような濃い茶色をあらわします。カバザクラの起源は古く、『源氏物語』のなかにも登場しています。「蒲色」とも表記されてきました。

●鶯色(うぐいすいろ)の説明は、修正が必要でしょう。

夏――
●萌葱色(もえぎいろ)=春の色でご紹介した「萌木色」は、萌え出る木の芽の色をあらわす緑色でしたが、こちらは夏を迎えて色濃く成長する葱の色。やや青みがかった暗い緑色をしています。昔懐かしい唐草文様の風呂敷や獅子舞の胴幕にも使われてきました。

●古代紫(こだいむらさき)=平安時代から紫色は高貴な色とされ、位の高い貴族しか身につけることが許されませんでした。しかし平安時代中期、一条天皇によって高官の衣服が黒に統一されると、古来の紫色は表舞台から消えてしまいます。それでも紫色の染色技術自体は受け継がれ、江戸時代に入ると人気の色に。当時生まれた派手めの紫を「今紫」と呼んだのに対し、平安の時代に愛されたのはこういった色あいであろうという推測のもとに、渋めの紫色である「古代紫」が誕生しました。

●縹色(はなだいろ)=あざやかな発色を実現させるため、藍染めはキハダと呼ばれる染料で下染めをしめますが、「縹色」は藍のみで染めた強い青色です。

秋――
●葡萄色(えびいろ)=「葡萄」と書いて「えび」と読みます。ここでの葡萄は、ヤマブドウの一種であるエビヅルの実のこと。6月に花が咲き、秋に酸っぱい小さな実をつけます。「葡萄色」は、この実が熟したような紫みの強い赤です。時代が進むと「えび」の漢字に「海老」があてられるようになり、イセエビの殻のような色と混同されるようにもなりました。

●銀鼠(ぎんねず)=鼠系の色が流行した江戸時代に誕生しました。明るい銀色のような鼠色をしています。

●鈍色(にびいろ)=平安時代では喪服に使われる「凶色」とされ、日常的に身につけることはありませんでした。時がたち凶色であった事実が忘れられると、江戸っ子好みの鼠系の色として人気を呼び、再び歴史の表舞台に登場しました。現在では、やや青みがかった灰色となっています。

冬――
●利休鼠(りきゅうねず)=千利休の名前がついていますが直接的な関係はなく、この色名を生んだ江戸の町人たちが高尚な色という感覚で名前を拝借したのだとか。茶の湯のイメージからか、緑がかった鼠色となっています。

●秘色(ひそく)=中国の焼き物「青磁」の最高級品の色とされています。淡い青緑色で、その神秘的な色あいから名前がとられたという説もあります。

●紅紫(こうし)=平安時代、濃い紅色と紫色は華やかで高貴な色の双璧とされていました。その特別な色を混ぜ合わせたような、あざやかな赤紫色が「紅紫」です。色名は室町時代に誕生したといわれています。また、その稀有なる麗しさが転じて、さまざまな美しい色や物事を表現する際に使われるようにもなりました。

穏やかな気持ちにさせてくれる一冊です。