榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

リベラルアーツに対する著者の熱い思いが伝わってくる本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(162)】

【amazon 『リベラルアーツの学び方』 カスタマーレビュー 2015年9月6日】 情熱的読書人間のないしょ話(162)

散策中に、水辺でハグロトンボが交尾しているところに出くわしました。雄が尾端で雌の頭を掴み、雌の尾端が雄の腹の付け根にある副性器と結合しているので、交尾中のペアは輪になったアクロバットのように見えます。我が家の庭では、昨夕からチッチッチッチッという微かな虫の音が聞こえるようになりました。秋の到来を告げるカネタタキです。

DSC_0263

P1020808

閑話休題、『リベラルアーツの学び方』(瀬木比呂志著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)には、著者のリベラルアーツへの熱い思いと、豊富な読書体験が詰まっています。

リベラルアーツとは何なのでしょうか。「実践的な意味における生きた教養を身につけ、自分のものとして消化する、そして、それらを横断的に結び付けることによって広い視野や独自の視点を獲得し、そこから得た発想を生かして新たな仕事や企画にチャレンジし、また、みずからの人生をより深く意義のあるものにする、そうしたことのために学ぶべき事柄を、広く『リベラルアーツ』と呼んでよいと思います」。

リベラルアーツを学ぶと何が得られるのでしょうか。「獲得してきた知識や情報を断片的な形にとどめず、横断的で幅広い思考の基盤とすることができたなら、また、それらの知識をより深みと広がりのあるものにするための思考の方法や枠組み、発想の方法を知ることができたなら、①パースペクティヴ、すなわち広がりと奥行きのあるものの見方と、②ヴィジョン、すなわち洞察力と直感により本質をつかむものの見方、その双方を獲得することができ、その結果、もっている能力を存分に生かすことが可能になるでしょう」。

この趣旨に基づき、多くの書物が紹介されています。私と好みが重なるため既読の書籍も多いのですが、これは読んでおかねばという本が5冊見つかりました。

「『まことに残念ですが・・・――不朽の名作への「不採用通知」160選』(アンドレ・バーナード編著、木原武一監修、中原裕子訳、徳間書店)という本です。作家たちが生前に受け取った出版社からの断り状を集めた本なのですが、驚くべきことに、名だたる著者たちが、木で鼻をくくったような言葉、時には無理解からくる悪意ある言葉でもって、けんもほろろに出版や掲載を断られているのです」。

「理化学研究所所属の小保方晴子研究員による論文不正疑惑で日本でも科学者のミスコンダクト、不正行為問題が大きな注目を集めましたが、科学におけるこうした倫理の問題を扱った本としては、『背信の科学者たち――論文捏造はなぜ繰り返されるのか?』(ウイリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド著、牧野賢治訳、講談社)が、ミスコンダクトは、なぜ、どのようにして生じるのかを構造的に明らかにし、科学と科学者のダークサイドに光を当てています。書き方も翻訳もややぎこちないところはありますが、内容はある本です」。

「『アンネの日記 増補新訂版』(アンネ・フランク著、深町眞理子訳、文春文庫)は、歴史的な日記の完全版で、非凡な少女の内面が赤裸々につづられています。完全版には、少女のエゴ、憎しみや葛藤、性への関心などを示す、かつての版では彼女の父親によって削除されていた記述が復活されているのです」。削除版しか読んだことのない私は、こう書かれては、この完全版を読まずにはいられないではありませんか。

「彼(フランツ・カフカ)の短編はすべてすばらしい。有名なのは『変身』ですが、グロテスク臭が強い点は、カフカ文学の一般的な特徴とは必ずしもいえません。長編では、未完の『城』、ついで『審判』がすぐれています」。カフカの長編を読むのはこれまで後回しにしてきたのですが、この際、『城』と『審判』にとりかかることに決めました。