榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

時の権力者・平清盛を巡る、白拍子・祇王と白拍子・仏の胸打たれる物語・・・【山椒読書論(542)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年4月3日号】 山椒読書論(’542)

大型絵本『祇王』(木下順二文、瀬川康男絵、ほるぷ出版)は、絵巻平家物語シリーズ全9巻の第2巻である。

権勢をほしいままにする平清盛。清盛に寵愛される白拍子・祇王。彗星の如く現れ、清盛の寵を得た白拍子・仏。清盛邸を追われる祇王。尼となり山里にひっそりと暮らす祇王を訪ねてきた仏。祇王と尼になった仏は、共に念仏を一途に唱える生活を送り、往生を遂げました――という、よく知られた『平家物語』のエピソードが、格調高い文章と、デフォルメされた印象的な絵によって展開されていく。

「仏は顔かたちもうつくしいうえ、舞はむろん世にきこえた名手、満座のものがみつめるなかを、あでやかにさわやかに、みごとまいおさめたかおさめぬかというとき、清盛はいきなり仏の手をとると、自分の部屋につれていってしまった。仏もさすがにおどろいて、『これはまた、なんという・・・もともとわたくしは、おしかけてまいったもの。それも追いかえされたところを、祇王御前のおくちぞえで、やっとよびもどしていただいただけでございましょう。それを、こういうことになりましては、祇王さまのお心にたいしても、はずかしゅうぞんじます。すぐ帰らせてくださいませ』。すると清盛は、『なになに。そうか、祇王にえんりょがあるというのか。ならば、祇王を追いだそうぞ』。仏はびっくりして、『とんでもないことを。わたくしは、およびくだされば、いつでもまたうかがいますゆえ、きょうはどうか帰らせてくださいませ』と、いくらたのんでも清盛は耳もかさず、祇王の部屋へ人をやって、おまえはさっさとやしきをでていけ、すぐでていけと、三度まで命じたのであった」。

「(尼となった祇王が暮らす)小屋の中へまねきいれられて、しばらくはだまってなみだをおさえていた仏御前が、だんだんにかたりはじめた。『・・・わたくしだけが、おやしきにのこるようになってしまいましたこと、ほんとうにつろうございました。それにつけても、いつかはわたくしもおなじことになるだろう、という気がしておりましたから、うれしいなぞと、思ったこともございません。・・・この世でのはなやかなくらしなど、夢のなかの夢のようなもの。人間と生まれて、仏の教えにであうというのは、なによりありがたいことでございます。歳が若いといっても、命は、かげろうやいなづまより、なおはかないもの。いっときのはなやかさに心が酔うて、死後の世界のことを考えてみもせずにいたわが身のことが、だんだんに悲しくなり、じつはけさ、こっそりとおやしきをぬけだして、こういうすがたになってまいりました』。そういって、仏御前がかぶっていた衣をとったのをみると、頭をそった尼のすがたであった」。

こういう魅力的な絵本で『平家物難』に触れることのできる子供たちは、本当に幸せだ。