砂漠に緑を取り戻し、平和をつくる実践を行った、真の平和主義者・中村哲・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2250)】
都心のオアシス、東京・文京の小石川後楽園で癒やされました。中国・杭州の西湖を訪れた時のことを懐かしく思い出しました。我が家では、ナツツバキが開花しました。これから1カ月ほどは、毎日、たくさんの花が咲き,そして落ちることが繰り返されることでしょう。
閑話休題、『武器ではなく命の水をおくりたい 中村哲医師の生き方』(宮田律著、平凡社)を読んで、とりわけ強く感じたのは、中村哲(てつ)の、そして著者・宮田律の平和に対する熱い思いです。紛争が絶えないイスラムの現実を知る二人だからこそ、平和の大切さを痛感するのでしょう。
医師の中村が、アフガニスタンで農地をつくるために砂漠に水を引く用水路を建設したこと、2019年12月にアフガニスタン東部のジャララバードで何者かによって殺害されてしまったことは、よく知られています。「中村先生は、人は食べ物があれば戦争などしないと言い続けました。平和な日本では想像するのが難しいかもしれませんが、アフガニスタンのような貧しい国では生活のために、戦争する集団に入ってお金をもらう若者たちがいます。・・・アフガニスタンではもう40年以上も戦争が続いています。そんなアフガニスタンで人びとに医療や衛生、さらには小麦、コメ、野菜などをつくる農地に必要な水を与えることによって人びとの命を大切にしようというのが、中村先生が目指していたことでした。まさに『武器ではなく命の水を』という精神が何よりも重要なことだと中村先生は固く信じ、その手本を自ら行動で示したのでした。・・・中村先生は、感染症の患者に抗生物質を与えるよりも清潔な水を与えるほうが有効だと考え、井戸を掘っていきました。先生が掘った井戸の数は1600本にも上りました」。
「中村先生は日本だけの利益を求めたわけでなく、世界に普遍的な、共通する課題として、アフガニスタンの環境問題を考え、また争いではなく。人に水や食べ物を与えることによって、世界の人びとが共有できる平和のあり方を実現しようとしました。安倍首相は『ニューヨーク・タイムズ』の記事にあるように、日本の憲法の改正を考えました。しかし、中村先生は『憲法は我々の理想です。理想は守るものじゃない。実行すべきものです。この国は憲法を常にないがしろにしてきた。インド洋やイラクへの自衛隊派遣・・・。国益のためなら武力行使もやむなし、それが正常な国家だなどと政治家は言う。私はこの国に言いたい。憲法を実行せよ』と語りました。・・・また、中村先生は『貧困や戦乱に苦しむ世界の人々が求めているのは(日本の)武力ではなく、日本が最も得意とする民生支援だ』と述べました。中村先生が言うように、世界が評価するのは日本の武力、軍事力ではなく、民生支援です。『民生支援』とは戦争や混乱がある国や地域で医療や食糧などの分野で人びとを助けることです」。
本書で、中村の強い平和志向を知り、彼に対する尊敬の念が一層増しました。