榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

チャールズ・チャップリンに関する興味深いエピソードがてんこ盛り・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2838)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年1月23日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2838)

節分が近づいてきましたね。

閑話休題、『教養としてのチャップリン――ビジネスと人生に効く』(大野裕之著、大和書房)は、チャールズ・チャップリンに関する興味深いエピソードがてんこ盛りです。

例えば、「チャップリンから学ぶビジネス」の章。「彼は映画産業において未曾有の成功を収め、撮影所から配給会社までを創設しほとんど赤字を出さなかった名経営者であり、キャラクター・ビジネスのベンチャーを創始し、そのノウハウをウォルト・ディズニーに授けた人物でもありました。加えて、早い時期にヨーロッパの通貨統合を提唱する論文を書いたエコノミストでもあります」。

「チャップリンが予知していた未来」の章。「移民や人種差別の問題、格差社会からメディアの『炎上』、さらには同性愛や異文化理解などダイバーシティに至る現代的なトピックが、チャップリン映画の中ですでに描かれていたことを見ながら、私たちの時代が直面する諸問題への解決法を彼のコメディに学びます。また、チャップリン映画がシャガールなどのモダンアートやマイケル・ジャクソンらポップ音楽に与えた幅広い影響や、日本人秘書・高野虎市を通じての日本との交流も紹介します」。

「マイケルはチャップリンに深く傾倒し、放浪紳士の衣裳一式を作ってちょび髭をつけてロンドンの街で撮影したほどです。『モダン・タイムス』の終盤でチャーリーが『ティティナ』を歌い踊る時に披露した、上半身をまったく動かさずに足首のモーションだけで前に進むダンスは、マイケルのムーンウォークに大きな影響を与えました。チャップリンの死後には、スイスのチャップリン邸を訪問し、ウーナ夫人と親交を結んでいます」。

「チャップリンvsヒトラー 武器としての笑い」の章。「チャップリンがヒトラーに立ち向かった世紀の傑作『独裁者』の製作とその歴史的背景を追います。わずか4日違いで生まれた二人は、メディアという戦場でイメージという武器をもって真正面から激突しました」。

「ヒトラーにとって、チャップリンは、メディア戦略上の最大の敵だったのです。・・・ところで、当のヒトラーは、『独裁者』を見たのでしょうか?・・・ヒトラーが作品を見たという直接的な証拠はないのですが、他の政権幹部が見た証拠は多くありますし、また自分のことが大々的にパロディにされている映画を全く見ていなかったと考えるのは不自然です。メディア戦略家のヒトラーのことですから、おそらくこの映画を見て研究を重ねたことと推測されます。さて、そんなチャップリンとヒトラーの対決に、決着がつく時が来ました。――『独裁者』が公開され、世界にチャップリンの演説が響き渡った1940年を境に、ヒトラーの演説回数が激減したのです。あたかも、総統の武器が奪われたかのように。ヒトラーの権力の源泉とは、あの迫力ある演説でした。ヒトラーはそれまで、多いときには大演説を1日に3~4回ほどやっていたのですが、『独裁者』公開翌年の1941年には、1年間でたったの7回、その翌年には5回と落ち込んでいったのです。すなわち、チャップリンに笑いものにされることによって、ヒトラーのイメージが崩れ、最大の武器だった演説の効力がなくなってしまった。笑いによって、ヒトラーの武器は奪われてしまった。リアルな戦場で決着がつく前に、ヴァーチュアルなメディアの戦場では勝敗がついていたのです。ユーモアは、人々の心を明るくして勇気づけるだけではなく、巨悪に対しての強力でリアルな武器になるということを、『独裁者』は教えてくれます」。

チャップリンの名言として、「人生に必要なのは、勇気と想像力、そして少しのお金もね」が挙げられています。これは、私の大好きな言葉です。

本書のおかげで、これからはチャップリン映画を重層的に「深く」味わうことができそうです。