あなたのような老婦人がベッドで休むのは棺に横たわるための準備ね・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2313)】
ミンミンゼミの反向型の交尾(写真1、2)を目撃しました。捕まえて裏返してみたが、がっちり合体していて離れません。無理矢理引き離したところ、雄(写真3、4)の長さ6mmほどの生殖器が雌のそれの中にしっかりと挿入されていたことが分かりました。雌(写真5、6)をカメラに収めました。撮影後、お楽しみのところを邪魔してごめんね、と謝りながら、放してやりました。アゲハチョウ(写真7)が吸水、ヒメアカタテハ(写真8~10)が吸蜜しています。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」という藤原敏行の歌が実感できる一日でした。読書の秋!
閑話休題、短篇集『幸いなるハリー』(イーディス・パールマン著、古屋美登里訳、亜紀書房)に収められている『介護生活』は、何気ない日常生活に忍び寄る老いと死を扱っています。
レニーが営むアンティーク・ショップを、いろいろな客が訪れます。「マフィー・ウィリスと夫のスチューは、週に二回は店にやってきた。長い結婚生活を送っている数多の夫婦と同じく、ふたりは兄妹のようにそっくりだった。ふたりとも背が低く、薄くなった髪はワセリン色で、古めかしいツイードの上着と砂色のカシミアのセーターを身につけていた」。
「ある夜、『タバーン』でエリッサ医師がレニーに老化について説明した。『いいこと、あなたのような老婦人はね、細胞がしでかすことには耐えられるの。医者の治療にだって耐えられる。でも最初の足の踏み外し、最初の足の捻挫。これが、つまり終わりの始まりってわけ。そのあと回復しているように見えても、実は衰弱していってるの。ベッドで休むのは棺に横たわるための準備ね。再び災難に見舞われ、さらにまた災難がやってくる。老いる体では骨を修復することができない。それからひたすら崩壊へと向かい、最後には滅んでしまう。だから、どんなに――』。『エリッサ、お願いだからもう・・・』。エリッサはビールをぐびりと飲んだ」。
自転車の方向を転回しようとするとよろけてしまう、黄信号の横断歩道を走って渡ろうとしても体が言うことを聞かない、2階に上る途中でつまずいてしまうなど、最近、めっきり、体の衰えを思い知らされている私には、とても他人事とは思えません。
明確な結末は示さずに、読者に考える手がかりを提供する――これがイーディス・パールマンの短篇作法のようです。