榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

恋人とセックスをしなくなって3年。その恋人の子を身籠もってしまったので、もらってくれという女性が現れたら、あなたならどうする?・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2363)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年10月6日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2363)

イソヒヨドリの雌(写真1~3)に出くわしました。ムラサキツバメの雌(写真4、6、7)が翅を開くのを待っていたところ、ニホンカナヘビ(写真4、5)がやって来ました。母親に連れられた愛くるしい女の子がチョウの行方を指差しています(許可を得て撮影)。トノサマバッタ(写真9)、ツチイナゴ(Sさんの教示。写真10~12)、その幼虫(写真13、14)をカメラに収めました。私を撮ってと言わんばかりに、アカスジキンカメムシの幼虫(写真15~17)が私のシャツにちょこんと止まりました。

閑話休題、『犬のかたちをしているもの』(高瀬隼子著、集英社)には、ごく少数の人物しか登場しません。ただし、相当な変わり者ばかりです。

「『わたしそのうちセックスしなくなるよ』。最初のセックスの後に言うべきことではなかったのかもしれない。ただタイミングって今しかないな、と思ったのも確かだった。二人で飲みに行ったのは、その日が四回目だった。帰りにホテルに入った。郁也のむきだしの胸が大きな息で膨らんだ。わたしは心臓の音をききもらさないように耳をぴったりくっつけた。速いリズム。『いつもそうなる。誰とでも。最初はこうやってするけど、早いと一か月とか、遅くても三、四か月くらいで、したくなくなる。嫌になる。くっついたり、一緒にお風呂に入ったりは平気だけど、性的な触られ方がつらくなる』。『恋愛の期間が短いんだ』。『わたしの中では、しなくたって相手のことは好きなままなんだけど』。『だけどセックスなしで好きでい続けるのは、難しいんじゃない』。『うん。でも、申し訳ないけど、そういうわけだから。先に言っておこうと思って』。『わかった。ねむたい』。郁也は本当に眠たそうな声で言う」。

「それからしばらくの間おかしくなったように郁也とセックスばかりしていた。そしてやっぱり四か月が経つ頃に嫌になって、ぱったり、しなくなった。『とうとうきたか』と郁也は言って、だけどそれだけだった。それから、もう三年が経つ」。

30歳の間橋薫は、3年4か月前に付き合い始めた同い年の田中郁也と、薫のマンションで仲良く半同棲しています。

薫は卵巣の腫瘍を切除していて、4年前に再発が分かりました。しかし、このことはセックスをしないこととは関係がないと、薫が断言しています。

ある日、突然、ミナシロさんという郁也の大学の同級生だった女性から、郁也との間にできた子を引き取って育ててほしいと頼まれます。「『田中くんと間橋さんに、別れてほしいんじゃないんです。わたし、田中くんと付き合ってるとか、そういうわけではないので。ビジネスの関係だったんです。お金をもらって、そういうことをする。なので、今回のは、ミスでした』。『お金』。わたしがつぶやくと、ミナシロさんが頷いて見せた。『個人的に、知り合いでそういうことをしたいっていう男の人がいたら、お金をもらってしてるんです』。・・・『間違えて、子どもができてしまって。それで、間橋さんには、ただ、わたしが子どもを産むことと、田中くんがその父親になることを、許してほしいんです』。・・・『認知というか、婚姻届を出して、田中くんの戸籍に入れてほしいんです、子どもを』。・・・郁也が口を開いた。『ミナシロさんと入籍して、戸籍上ちゃんと、生まれてくる子の父親になって、その後で離婚する。それで、子どもはおれが引き取る』。郁也の隣で、ミナシロさんが頷いて見せた。・・・『間橋さんが育ててくれませんか、田中くんと一緒に。つまり、子ども、もらってくれませんか?』」。

「(郁也が)お金を払ってセックスをしていたことも、だからってミナシロさんが好きだというわけではないことも、わたし(薫)と別れたくないということも、全部本当だというのは分かった」。

ミナシロさん(水名城ゆき)から子どもをもらおうと、漸く決心した薫に、郁也から生まれたという報告が来ます。

ところが、最後の最後に至って、思いもかけない、どんでん返しが待ち構えていたのです。

1ページ目から最終ページまで、戸惑いながら、愛とは何か、セックスとは何か、子どもとは何か――を考えさせられる作品です。