不思議な味わいの短歌たちが、それぞれ自己主張している・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2388)】
本日午前中に、女房と、衆議院議員総選挙、最高裁判所裁判官国民審査、柏市長選挙の投票に行ったところ、投票所には、この30年間、経験したことのない長~い行列ができていました。ひょっとすると、日本の政治が変わるかもしれません。
閑話休題、『歌集 猫を踏まずに』(本多真弓著、六花書林)には、不思議な味わいの短歌たちが、それぞれ自己主張しています。
●菅の根の長き時間を働けば同期が急に老けて見える日
●パトラッシュが百匹ゐたら百匹につかれたよつていひたい気分
●漢字なら偏と旁のやうなもの手をつながずに歩くふたりは
●くちびるでふるるまなぶた 目蓋(まなぶた)のしたの地球を愛するやうに
●三年ぶりに家にかへれば父親はおののののろとうがひしてをり
●ふれられてひかるからだがあるころにわたしあなたに出会ひたかつた
●ひらかれるときのわたしのかなしみをきみのからだも知ればいいのに
●もう一度会ひたいひとがもうゐないさういふことに慣れてゆく春
●風のない夜にひつたりよみがへる十本の指ひとひらの舌
●こひびとが知らないひとになる夜の雨のまなぶた霧のくちびる
●べろべろに酔つて許諾を求めてはいけない不意にくちづけはせよ
●ひらがなのやうにをんなのもつ肉のゆるりゆうるりたれてゆくなり
●独身のをとこともだち全員が息子に見える初老期の朝
●嫁として帰省をすれば待つてゐる西瓜に塩をふらぬ一族
●こころつて開いてゐるとくたびれる閉ぢてしまふとすぐくさりだす
●飲みかけのサイダーくつと差しだして恋になつたらどうするつもり
●告げるとは心臓割つて渡すこと吹きつさらしの駅のホームで
●新樹からこぼれた鳥のうたごゑを王権神授説と感受せよ
●まきつけた指でたどりぬきみの背のあらく捥(も)がれた両翼のあと
●生殖はなさずあなたとほろびゆく種族同士のことばをかはす
●気をつけてあなたときどきすきとほるくせがあるからキスをするとき
●どこまでがきみのきまぐれゆふまぐれまぐれあたりのやうなくちづけ
●おとなにはなつてしまつてそのあとのひりひりながい産まない女
●ほんたうのことを教へてあげようかわたしの穴はもう閉ぢてゐる