榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

魚はバカではなかった、鏡に映る自分をちゃんと認識していることが分かったのだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2427)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月9日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2427)

ストレプトカルプス・サクソルム(写真1、2)、ハナキリン(写真3)、コードニア・ラシアンサス(写真4、5)が咲いています。我が家の庭のオモトの実が真っ赤になりました。

閑話休題、驚くべき本が出現しました。『魚にも自分がわかる――動物認知研究の最先端』(幸田正典著、ちくま新書)がそれです。

著者・幸田正典は、ホンソメワケベラという小さな熱帯魚は、鏡に映った自分の姿を見て、それが自分だとわかるというのです。本書には、この研究のきっかけ、失敗談、発表するまでの苦労などが綴られています。

魚が自己認識できる、あるいは自己意識や自意識を持つという研究結果が、なぜ驚くべきことなのかは、現在の生物研究者たちの定説を全面的に覆す可能性を秘めているからです。「これまでの、そして現在の世界の自然観や動物観は、人間が頂点にあり、知性や社会性などにおいて、順に霊長類、その他の哺乳類、鳥類、爬虫・両生類、魚類と劣っていく、あるいはより原始的な存在であると見なしている。その底辺に置かれた魚類に至っては、本能的にしか生きられず、感情すらないと見なされていた。もっと言うと、10年前までは痛みさえわからないとされていた。そのような、しかも10cmに満たない魚が鏡を見て自己を認識できるというのだから、にわかには受け入れられないのは無理もない。しかし、本書を読めば、おわかりいただけると思う。これまでのヒトを頂点とする価値体系がおよそ間違っているのである。脊椎動物は、形態や知覚だけではなく、知性の面でも連続的であって、決してヒトや類人猿だけが特別な存在なのではない。控えめにいって、人と動物との間にはルビコン川はないというのが私の立場だ。・・・その後、この研究は論文として発表され、批判だけではなく、賛同の声も数多く挙がりだす。さらに研究を続けると、むしろこれまでの『魚はバカだ』という考えこそが間違いであることがわかってきた。現在、その研究はさらに進んでおり、それらも併せて紹介したい」。

これまでの常識と大きく異なり、魚の自己意識、その他のいくつかの「賢さ」、そして「こころ」さえも、どうも人間とかなり近い面があるとまで、著者は言っています。目から鱗がぽろぽろと落ちました。私は研究者でも何でもないが、著者の主張に全面的に賛同するものです。

本書を読んだら、誰もが、どんな魚にも親近感を抱いてしまうことでしょう。