水族館の水槽に潜り餌やりをする若い女性と、川に潜って宝探しをする中年男性の物語・・・【山椒読書論(640)】
【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月24日号】
山椒読書論(640)
コミックス『人間交差点(21)――街』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「水の中」は、水族館の大きな水槽に潜り餌やりをする若い女性と、川に潜って宝探しをする中年男性の物語である。
「あなたと出会ったのは去年。寒い冬の早朝だった・・・」。「何だ、自殺かと思っちゃった・・・」。「何してるんですか?」、「宝探しだ!!」。「男の顔は真剣だった。あたりまえかのように、そう答える。男は再び水中に姿を消した」。
「男はエリートで、平均的サラリーマンより遥かにリッチな生活を送って、なおかつ自分に行き詰まりを感じているという。そんなことを言われたら、私なんか一体どうしたらいいのだろう」。
「金貨が見つかったら山わけにするという条件で、私もスキューバダイビングを習い始めた。もちろんそんなことは、最初から信じてはいない。私も何かを変えたかったんだ」。
「川の中は別の世界だった・・・OLで将来のことが不安で、絶えず洋服を買うやりくりに悩み、家賃が高いと嘆いている本当の自分が嘘のようだった」。
「水がぬるむ頃、私は男と何のためらいもなく、ひとつになっていた」。
ある日を境に、男は、もう宝探しには来なくなった。
「宝物なんか見つける必要なかったんですよね。あなたにはちゃんと、家族って宝物持ってたんだもん」。「仕事が空まわりしていた。あせるぐらいなら、休んでいようって・・・一時的に水の中に逃避していたのかも知れない」。
その後、彼女は・・・。