藤沢周平の魅力に多面的に迫った一冊・・・【山椒読書論(659)】
『文豪ナビ 藤沢周平――静かに生きる力強さ。』(新潮文庫編、新潮文庫)には、藤沢周平の魅力が詰まっている。
藤沢を理解するキーワードの一つが、「普通が一番」である。「長男を死産で亡くし、その後、妻は生まれたばかりの長女を残して急逝。当たり前の日常が一瞬にして瓦解する経験をした藤沢は、華族に常に『普通が一番』と言っていた」。
藤沢の小説やエッセイに登場する言葉が心に沁みる。
●人間は後悔するように出来ておる――『蝉しぐれ』。
●日残リテ昏(ク)ルルニ未ダ遠シ――『三屋清左衛門残日録』。
●若いころはさほどに気にもかけなかったことが、老境に入ると身も世もないほどに心を責めて来ることがある――『三屋清左衛門残日録』。
●衰えて死がおとずれるそのときは、おのれをそれまで生かしめたすべてのものに感謝をささげて生を終ればよい。しかしいよいよ死ぬるそのときまでは、人間はあたえられた命をいとおしみ、力を尽して生き抜かねばならぬ――『三屋清左衛門残日録』。
●おぬし、今日の試合で心おきなく闘ったか。妻女に対して男らしく勝負したと言えるか――『秘太刀馬の骨』。
●みんな欲だ。てめえの欲のためには、人間かなりひでえことも平気でやるもんらしいぜ――『霧の果て』。
●もう一度所帯を持つとしたら、相手はおめえしかいねえと決めていた――『消えた女』。
●それでいいんだ。むかしのことは忘れた方がいい。人間、いろいろとしくじって、それを肥しにどうにか一人前になって行くのだからな――『人間の檻 獣医立花登手控え(4)』。
●おのれが一分を立てるために、男は死を賭さねばならんこともある――『隠し剣孤影抄』。
●回天の時期がきている――『回天の門』。
●だが人間には、人間が人間であることにおいて、時代を超越して抱えこんで来た不変の部分もまたあるだろう――『ふるさとへ廻る六部は』。
●小説は想像力の産物である――『ふるさとへ廻る六部は』。