『三屋清左衛門残日録』は、藤沢周平の世界を逍遙するのに恰好の連作長篇だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2502)】
ホオジロ(写真1、2)、モズの雄(写真3、4)、ヒヨドリ(写真5、6)をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は11,871でした。
閑話休題、『三屋清左衛門残日録』(藤沢周平著、文春文庫)は、藤沢周平の世界を逍遙するのに恰好の連作長篇です。
例えば、「醜女」は、このような話です。
前藩主の用人を務めた三屋清左衛門は、前藩主の死去を機に、惣領息子に家督を譲り隠居したが、強い寂寥感に襲われます。
そんな清左衛門は、元服前から親しい町奉行・佐伯熊太から、思いがけないことを頼まれます。このほど、おうめという女子(おなご)が父(てて)なし子を身籠ったことに怒り狂った組頭の山根備中が、おうめを抹殺しかねないので、この一件の始末に骨折ってほしいというのです。「行儀見習のため城の奥御殿に奉公に入っていたのだが、ある年、在国中の先代藩主が何の気紛れを起こしてか、おうめに一夜の伽を言いつけた。どういう気紛れかとひとが怪しんだというのは、おうめが醜女だったからだというが、清左衛門はその女性を見たことはない。ただその一夜の出来事のあと、おうめが暇を出されて実家にもどり、藩から三人扶持をもらう身分になったことは知っていた。そのときおうめは十六で、そのことがあったのはいまから十年ほど前のことである」。
早速、清左衛門はおうめに会いに行きます。「ただ一度お手がついたために、十年もの間この部屋に閉じこめられることになった若い女の残酷な運命が見えて来て、清左衛門は先の殿も罪なことをなされたものだと思った。・・・長い幽閉に抗っておうめが子供を孕んだのは自然の理と言うべきで、責めたくはない。ただし、むろん相手の男が問題だと清左衛門は思った」。
おうめから漸く聞き出した相手の男は、大きな呉服屋の三男坊の竹之助でした。「『それがおかしなことにな、熊太』。清左衛門はこらえかねてくすくす笑い、むかしの呼び名で町奉行を呼んだ。『竹之助はなかなかの美男子なのだ。年上で不美人のおうめどのでなくとも、相手はいくらもあろうと思われるのに、縁はまことに異なものだ』。『ふ、ふ』と佐伯も笑った。『そういう組合わせは、えてして仲のよい夫婦に出来上がることがあるものだ』。『わしは二人が一緒になれるよう、骨折ってやろうかと思っている』と清左衛門は言ったが、実際は二人にその約束をして来たのだ。それを聞いた二人の喜びようが眼に残っている。ことにおうめはしあわせそうで、面妖なことにちょっぴりうつくしくさえ見えた。言うまでもなく、充ち足りてしあわせな人間ほどうつくしく見える者はいないのである」。この件(くだり)、藤沢節全開ではありませんか。