榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

映画『羅生門』は、芥川龍之介の『羅生門』と『藪の中』を組み合わせるという黒澤明のアイディアが光る傑作・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2262)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年6月22日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2262)

ホオジロ(写真1~7)の水浴びをカメラに収めました。ノカンゾウ(写真8、9)、ヤブカンゾウ(写真10)が咲いています。今季初めて、ミンミンゼミの鳴き声を耳にしました。近くの農家の庭先で、朝穫りのエダマメが売られています。

閑話休題、芥川龍之介の『羅生門』と『藪の中』を読んだら、黒澤明の映画『羅生門』(DVD『羅生門』<黒澤明監督、三船敏郎・京マチ子・森雅之出演、角川映画>)を、またまた見たくなりました。この映画は何度も見ているが、今回は、これまでとは異なる印象を受けました。

印象の第1。芥川の『羅生門』から舞台を、『藪の中』から物語の骨格を借りてきているが、雨が激しく降りしきる、荒れ果てた羅生門で、旅の途中で侍の妻が手籠めにされ、侍が死んだという不可解な事件を振り返るというアイディアは、さすが黒澤です。なかなか止まない雨が、私たちを当時の世界に引きずり込む効果を上げています。

印象の第2。登場人物たちが当時の言葉ではなく、現代の私たちと同じような言葉を使っているという意外感。これも黒澤のアイディアかと思ったが、然(さ)にあらず。『藪の中』の芥川の表現を忠実に再現しているのです。現代語なので、裁判員制度の裁判員として、法廷で行われる審理に立ち会っている気分にさせられました。

印象の第3。リアル感を重視した部分と、戯曲的な様式美を見事に融合させた、映画としての完成度の高さ。個人的には、『羅生門』が黒澤作品のNo.1と考えています。

ただし、不満が1つ。盗人と侍が闘う場面で、両者が片手で刀を振り回すのには違和感があります。刀というのは、両手でしっかり握らなければ、人など斬れるものではないからです。念のため、『藪の中』を読み返してみたが、「片手で」刀を振り回すという表現は見当たりません。