榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

読んだ私の頭が破滅しそうな小説・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2501)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年2月21日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2501)

モズの雄(写真1、2)、ホオジロ(写真3)、ツグミ(写真4)、スズメ(写真5、6)をカメラに収めました。

閑話休題、短篇集『アウレリャーノがやってくる』(高橋文樹著、破滅派)に収められている『アウレリャーノがやってくる』は、何とも風変わりな小説です。

他人の気持ちを詩で表現して報酬を得る代理詩人のアマネヒト、19歳は、オンラインで文学作品を発表しているIT出版社「破滅派」の一員となります。メンバーは紙上大兄皇子、ほろほろ落花生、貯畜、山谷感人、エマニュエル・イタ子、サクオ・アングロ、太郎次郎ゴロー、潮と変わり者揃いです。

「読書というのは、他人の思考の上で踊るというだけのことなのに、自分がなにかを創造した気になってしまう。アマネヒトもまた、その悪癖を身につけていた」。

「アマネヒトの考えだと、詩は心を癒すものであってはならなかった。そんなものは、精神安定剤の代用品でしかない。でも、アマネヒトがあのくだらない路上詩人たちの美点として唯一認めたのは、自らの傷ついた心を言い表す術さえ知らない人たちの代わりに言葉を与えた、という点だった」。

「『詩ていうのはよ、人の心切り裂くもんじゃなぎゃわがねと思うのさ。ぽよよんとしたほんわかな言葉っこ並べて、はい、よくがんばったな、辛がっだべ、いいんだよ、君はそのまんまでいんだっちゃ・・・なんて、全部くっだらねぇわげよ。んだべ? 甘ったるいお菓子みたいなのは犬の糞と同じなわげ。詩はビターチョコなわげよ』」。

「『詩人はなるものではない。生まれるものなのだよ』」。

「瑣細なことで愛する人とすれ違ったりするかもしれない。それを避けるための呪文はただ一つ。想像力だよ」。

「もともと『破滅派』は真っ当な人生を諦めた人間たちの方舟――再生の場――として出発した。そのコンセプトに共鳴して集うのは、当然、ダメ人間である」。

「皇子はキーボードを叩き続けた。カタカタと破滅を奏でるその音に怯え、アマネヒトは逃げ出した、そして見た。床の上ではバニーガールの格好をした潮さんが、虚ろな眼で地面を眺めながら、親指をしっかりと咥え込んでいるのを。豊満な身体の女が赤ん坊に戻ると、反って汚く見えた」。

「アマネヒトはどうしたか。彼は書いた。何を? 詩ではなく、履歴書を」。

「石川啄木は朝日新聞に校正係として入社し、給料を前借りして逃げた。中原中也は読売新聞を受験して落ちている。就職の失敗は詩人として不可欠なのかもしれない。いや、就職してそつなくやれる人間はきっと詩など書かないだろう」。

「それからしばらくアマネヒトが行方知れずになったのを出奔と名づけるのならば、そうだろう、結局、彼は逃げたのだ」。

「『おまえはさ、なんだかすべてを白黒つけたがるな。潮もそうだ。でもな、物事はグラデーションで進んで行くんだよ、どうしようもなく』」。

「『なんでもできる悪魔より、なにもできない天使の方が愛されるってことを、悪魔が知らないと思ったか?』」。

「そして、代理詩人は代理詩人ではなくなった。アマネヒトは書き始めた。何を? 彼の詩を」。

うーん、読んだ私の頭が破滅しそうな作品だと言っておきましょう。