榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

命じられたとおり裸のまま、こわばりながら脚を広げて前かがみになった女たち・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2531)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月23日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2531)

モクレン(シモクレン。写真1~3)、ハクモクレン(写真4~6)、シデコブシ(写真7~9)、レンギョウ(写真10、11)が咲いています。早朝、ほら、植木鉢に氷が張っているわよ、と女房が持ち込んできました(写真12)。庭の片隅でユキヤナギ(写真13)が咲いています。因みに、本日の歩数は11,323でした。

閑話休題、『ウイグル大虐殺からの生還――再教育収容所 地獄の2年間』(グツバハール・ハイティワジ、ロゼン・モルガ著、岩澤雅利訳、河出書房新社)は、中国新疆ウイグル自治区の再教育収容所に放り込まれ、2年後に奇跡的に救い出されたウイグル人女性の体験記です。

「中国の狙いは、ウイグルの過激な少数派を罰することだけでなく、グルバハールのように外国へ亡命した者も含めて、ウイグル人すべてを消滅させることにある」。

「再教育収容所には、あらゆる収容者を同じ方法で心身ともに破壊しようとする特徴がある。収容者はまず、個性を奪われる。名前、自分の服、そして髪の毛を奪われる。こうして収容者は、他の収容者とまるで区別がつかなくなる。次いで収容者は。厳しいスケジュールにしたがうことで、その体を奪われる。教官が1日に11時間、窓のない教室で収容者に共産党の偉大さを、休む暇も与えずくり返し唱えさせる。途中でやめると罰を加えられる。収容者は暗誦を延々とくり返すうちに何も感じなくなり、何も考えられなくなる。そして時間の感覚を失う。まず時間がわからなくなり、やがて月日を忘れてしまう」。

「私は罰を受けたが、どうしてかはわからない。ある日の朝、看守が入ってきて、何も言わずに私の足首の鎖をベッドの格子につないだのだ。2週間前のことだった。それ以来私は金属製ベッドのヘッドボードによりかかり、ほこりだらけの床にすわりこんだまま生活している。夜は藁の寝床の上に苦労してよじのぼる。まわりでは、つきっぱなしの蛍光灯のせいで昼夜の感覚がなくなる状態のなか、202号室の終わりのない生活がまた始まった。拘留とは、こういうことなのだ」。

「『右! 左! 休め!』。私たち40人ほどの女は、青いジャージ姿で部屋に集まっている。どこにでもあるような長方形の教室。広さは50平方メートルもなさそうだ。窓には幅の広い金属製のブラインドがあるため、小さい穴から光が入ってはくるが、外の景色はまったく見えない。1日のうち11時間、世界はこの部屋だけになる。漢人の教官ふたりが拍子をとるあいだ、リノリウムの床に私たちの靴音がひびく。私は同室の女たちとともに『肉体のトレーニング』を受ける。それは実際には軍事教練だ。体の疲れに耐えながら、一糸乱れぬ動きで教室のなかを縦、横、ななめに動きまわる。教官が中国語で『休め!』とどなると、私たちの囚人部隊は動かなくなる。教官はじっとしたままでいるよう命令する。それは30分続くこともあれば、1時間かそれ以上続くこともある。そんなときは脚がだんだんしびれてくる。興奮がさめないまだ熱い体を、むし暑さでぐらぐら揺れないよう必死に持ちこたえようとする。吐いた息のむかつくような空気が広がる。酸素の足りないこの空間で、私たちはみんな牛のようにあえぐ。ときおり気を失って倒れる者が出る。教官がどなりつけても反応がない場合、その女はほおを平手打ちされてから荒々しく助け起こされる。ふたたび倒れると、教室から出ていかされ、その後二度と戻ってこない。初めのころ私はショックを受けたが、いまはありきたりのことと思うようになった」。

「バイジャンタンの収容所では、教室でも食堂でも浴室でも自分たちの居室でも、教官と警官と監視員の暴力やおどしを受けないでいられる場所はない。彼らが背後にいないときは、監視カメラが私たちを見張っている。私たちは価値のない人間の状態、おどされて屈服するしかない弱者の状態に追いやられているのだ」。

「新疆では誰も自分の考えを自由に言うことはできない。(妹の)ネジマと母は収容所に入れられているわけではないが、やはり受刑者も同然だ。ふたりとも私のように口を封じられている。バイジャンタンのまわりを厳重に囲む有刺鉄線の外側でも、ウイグル人の再教育が進んでいる。収容所に閉じ込められようとそうでなかろうと、中国は私たちに恐怖、脅迫、そして検閲による再教育という同じ運命を用意している。新疆全体が野外の牢獄になってしまった。その牢獄のなかで、私たちは誰かれかまわず、ずたずたにされるのだ」。

「吐いてしまうのではないかと思ったほど、私の胃は収縮した。どういうこと? 服を脱げって? ここで、みんなの前で、蛍光灯のあかりに照らされたなかで? いったい彼らは私たちに何をしようとするのか? 『服を脱げ』とリーダー格の監視員がくり返した。私たちは何度かおそるおそる横目でたがいに視線を交わしたが、その命令にしたがうほかなかった。そこで私は、ゆっくりと制服のつなぎの錆びたファスナーを引っぱり、足首までそれを下げた。誰もおたがいの姿を見ようとしなかった。おそろしい瞬間だった。いまでもそのときのことを思い出すとぞっとする。命じられたとおり裸のまま、こわばりながら脚を広げて前かがみになった私たちのうしろを人影が通っていく。彼らは私たちが恥部のなかに何か隠していないか調べていった。上半身を前に倒しているので、だんだん頭に血がのぼっていった。彼らの湿った息づかいを背中に感じる。私は嫌悪感と屈辱と恥ずかしさのあまり目をつぶった」。

この再教育収容所は、2017年に習近平が設置を命じたものです。

差別を憎む者にとって、見逃すことのできない一冊です。