射殺された博士の右手には、半分に千切られたトランプのスペードの6のカードが・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2543)】
一日中、雨、雨、雨・・・。直径15cmほどのツバキが咲いています。
閑話休題、本格推理小説の傑作とされる『シャム双子の秘密』(エラリー・クイーン著、越前敏弥・北田絵里子訳、角川文庫)は、特異な状況下で物語が展開していきます。
探偵エラリー・クイーンと、その父クイーン警視は、山火事に遭遇し、山頂近くの屋敷に逃げ込みます。その大きな屋敷の主、著名な外科医ゼイヴィア博士の好意で、クイーン父子は泊まれたのだが、翌朝、博士の射殺体が書斎で発見されます。博士の右手には、半分に千切られたトランプのスペードの6のカードが固く握られているではありませんか。これは犯人の名を告げようとしたダイイング・メッセージと考えたエラリーとクイーン警視の捜査が始まります。山火事で逃げ道を塞がれた屋敷には博士の妻、弟、実験助手、使用人たち、客人たちがいるが、いったい、誰が犯人なのでしょうか。
一気に読み終えた時、3つのことを感じました。
第1は、名探偵にも拘らず、エラリーの推理が指し示す犯人が、次々と覆り、最後に至って、意外な犯人が明かになるという、相次ぐどんでん返しの見事さです。期待を裏切らぬ傑作でした。
第2は、頭脳明晰な探偵エラリーと共に事件解決に取り組む、エラリーの父で頭脳明晰とは言い難いクイーン警視が、実にいい味を醸し出していることです。この名脇役が作品に膨らみを与えています。
第3は、何か悩み事や心配事があっても、一流の推理小説を読んでいる間は、それらを一切忘れることができるということです。このことを裏付けるかのように、本作品の最終部分に、迫りくる山火事に恐れおののく人々(この中には、犯人も含まれている)にエラリーが最後の謎解きを説明する場面が用意されています。エラリーは人々に焼き尽くされる恐怖を忘れさせようとしたのです。