ドングリを食べると死んでしまう危険性があるのに、アカネズミがドングリを食べ続けるのはなぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2547)】
大きなバッタがいるわよ、という水遣りをしていた庭師(女房)の声。慌てて駆けつけたら、クビキリギスの雄(写真1、2)ではありませんか。我が家の庭では、フクロナデシコ(写真3、4)、オダマキ(写真5)、エビネ(写真6)、チューリップ(写真7)、クルメツツジ(キリシマツツジ。写真8、9)、ハナミズキ(写真10、11)が咲いています。散策中、ハナミズキ(写真12)、サクラの園芸品種・ウコン(写真13、14)、ミツバツツジ(写真15)をカメラに収めました。
閑話休題、『野ネズミとドングリ――タンニンという毒とうまくつきあう方法』(島田卓哉著、東京大学出版会)には、知的好奇心を激しく掻き立てられました。
「これまでの常識とは異なる、『(野ネズミの一種の)アカネズミがドングリを食べて死んでしまう』という現象。・・・本書では、ドングリを食べてなぜアカネズミは死んでしまうのか、そしてアカネズミは野外ではどうやってこの問題を克服しているのかという謎解きを軸に、野ネズミとドングリを巡る生物学について話を進める」。
「アカネズミには気の毒な実験であったが、最初に行ったドングリ供餌実験によって、ドングリが潜在的には有害な食べ物であることが確かめられた」。
「貯食毒抜き仮説に続いて検討したのが、馴化仮説である。馴化とは聞き慣れない言葉かもしれないが、要するに『体が馴れる』ことである。もう少し専門的には、『一般には生物の示す適応や順応で、ふつうは生物の高地移動、季節変化、淡水・海水間の移動などの際に新しい環境に対応するのに数日から数週間を必要とする適応』と、定義されている。・・・ドングリなどのタンニンを含む餌を少しずつ食べて体がタンニンに馴れた状態になると、ドングリに含まれるタンニンを克服することができるのはないかというのが、この仮説のコンセプトである」。
「馴化していればタンニンを克服できるとわかったとしても、どのような仕組みでアカネズミがタンニンに馴化しているのかを明らかにできなければ、謎を解いたことにはならないだろう。・・・想定されるメカニズムの一つは、タンニン結合性唾液タンパク質の誘導という生理的なメカニズムであり、もう一つはタンナーゼ産生腸内細菌の増加という共生微生物の関わるメカニズムである」。
「アカネズミは、PRPsとタンナーゼ産生細菌という、タンニンに対する馴化のためのメカニズムを持つことがわかった」。PRPsとは、タンニン結合性唾液タンパク質の一種です。
「今までの結果を総合して考えると、アカネズミは次のような方法でタンニンを克服しているのだと考えられる。第1に、摂取された食物中のタンニンは、タンニン摂取によって分泌量が増えたPRPsとアカネズミの口腔内で結合し、安定な複合体を形成する。その結果、タンニンは消化管上皮細胞や粘膜との結合、低分子フェノールへの加水分解といった反応を起こすことができなくなり、アカネズミは消化管損害や臓器不全といった悪影響を被らなくなる。ところが、タンニンとPRPsとの複合体がそのまま排泄されてしまうとPRPs自体もタンパク質であるため、生体内の窒素バランスの悪化という負の影響は解消されないままになってしまう。そこで、第2段階として、タンナーゼ産生細菌(乳酸菌タイプ)がタンニン-タンパク質複合体を生体が利用可能な形に分解し、窒素バランスの悪化を緩和しているのではないかと考えられる。窒素が再利用されるメカニズムはまだ明らかになっていないが、タンナーゼ産生細菌の働きによってタンニンと分離されたタンパク質を、糞を食べることによって回収している可能性がある。この点は、今後の検討課題である。タンニン結合性唾液タンパク質とタンナーゼ産生腸内細菌。アカネズミがドングリ中のタンニンを無毒化し、効率よくドングリを利用するためには、この2つをセットで持つことが重要なのである」。
「タンニンというフィルターを通してこの関係を見ることによって、今まで知られていなかったドングリと野ネズミの間の緊張感のある関係を再発見することができた。アカネズミは、良い餌をなんの工夫もせずに享受していたのではなく、進化の過程でタンニンに対するさまざまな対抗手段を身につけることによって、厄介なドングリをうまく利用できるようになったのだろう」。うーん、勉強になりました。