榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

選挙も政治家もいない民主主義を目指そう!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2675)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年8月13日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2675)

午前中、千葉・柏の「こんぶくろ池自然博物公園」の木暗い森で、ヒグラシの大合唱に包まれました。ヒグラシの雄(写真1、2)を撮影後、放しました。キツネノカミソリ(写真3~7)が咲き、イヌビワ(写真8、9)が実を付けています。台風接近中のためか、人っ子一人出会いませんでした。

閑話休題、『22世紀の民主主義――選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(成田悠輔著、SB新書)の主張は、はっきり言って、ぶっ飛び過ぎです。なにしろ、選挙も政治家もいない民主主義を目指そう!というのですから。

著者・成田悠輔は、「若者が選挙に行って『政治参加』したくらいでは何も変わらない」と言い放ちます。本当に大事なのは、「選挙や政治、そして民主主義というゲームのルール自体をどう作り変えるか考えることだ。ルールを変えること、つまりちょっとした革命である」。

「経済と言えば『資本主義』、政治と言えば『民主主義』。勝者を放置して徹底的に勝たせるのがうまい資本主義は、それゆえ格差と敗者も生み出してしまう。生まれてしまった弱者に声を与える仕組みが民主主義だ。暴れ馬・資本主義に民主主義という手綱を掛け合わせることで、世界の半分は営まれてきた。二人三脚の片足・民主主義が、しかし、重症である。・・・なぜ民主国家は失敗するのか? ヒントはネットやSNSの浸透とともに進んだ民主主義の『劣化』である。劣化を象徴するヘイトスピーチやポピュリズム的政治言動、政治的イデオロギーの分断(二極化)などを見てみよう。すると、そうした民主主義の劣化が今世紀に入ってから世界的に進んでいること、そしてその劣化の加速度が特に速いのが民主国家であることがわかった」。

重症の民主主義が再生するために何が必要なのでしょうか。「3つの処方箋が考えられる。①民主主義との闘争、②民主主義からの逃走、そして③まだ見ぬ民主主義の構想だ」。

著者の結論は③に辿り着きます。「求められるのは、民主主義を瀕死に追いやった今日の世界環境を踏まえた民主主義の再発明である。そんな構想として考えたいのが『無意識データ民主主義』だ。インターネットや監視カメラが捉える会議や街中・家の中での言葉、表情やリアクション、心拍数や安眠度合い・・・選挙に限らない無数のデータ源から人々の自然で本音な意見や価値観、民意が染み出している。『あの政策はいい』『うわぁ嫌いだ・・・』といった声や表情からなる民意データだ。個々の民意データ源は歪みを孕んでハックにさらされているが、無数の民意データ源を足し合わせることで歪みを打ち消しあえる。民意が立体的に見えてくる」。

「無数の民意データ源から意思決定を行うのはアルゴリズム(問題を解決するための手順をコンピューターのプログラムとして実行可能な計算手続きにしたもの。検索エンジンからおすすめ表示までウェブ上のあらゆる場所で働いている)である。このアルゴリズムのデザインは、人々の民意データに加え、GDP・失業率・学力達成度・健康寿命・ウェルビーイングといった成果指標データを組み合わせた目的関数を最適化するように作られる」。従って、「無意識民主主義=エビデンスに基づく目的発見+エビデンスに基づく政策立案」と言えるというのです。

「こうして、選挙は民意を汲み取るための唯一究極の方法ではなく、エビデンスに基づく目的発見で用いられる数あるデータ源の一つに格下げされる。民主主義は人間が手動で投票所に赴いて意識的に実行するものではなく、自動で無意識的に実行されるものになっていく。人間はふだんはラテでも飲みながらゲームしていればよく、アルゴリズムの価値判断や推薦・選択がマズいときに介入して拒否することが人間の主な役割になる。人間政治家は徐々に滅び、市民の熱狂や怒りを受けとめるマスコットとしての政治家の役割はネコやゴキブリ、デジタル仮想人に置き換えられていく」。人間政治家が要らなくなるとは、何と素晴らしいことでしょう!

「無意識民主主義は大衆の民意による意思決定(選挙民主主義)、少数のエリート選民による意思決定(知的専制主義)、そして情報・データによる意思決定(客観的最適化)の融合である。周縁から繁りはじめた無意識民主主義という雑草が、既得権益、中間組織、古い慣習の肥大化で身動きが取れなくなっている今の民主主義を枯らし、22世紀の民主主義に向けた土壌を肥やす」。

著者の「無意識データ民主主義」は魅力的で検討に値するが、「少数のエリート選民による意思決定(知的専制主義)」という部分に危うさを感じます。著者は、「無意識民主主義アルゴリズムを設計する少数の専門家による意思決定(科学専制・貴族専制)」とも表現していますが・・・。