雪はげし抱かれて息のつまりしこと・・・【ことばのオアシス(64)】
【薬事日報 2011年4月13日号】
ことばのオアシス(64)
雪はげし抱かれて息のつまりしこと
――橋本多佳子
38歳の時に死別した夫への追慕の思いがほとばしる橋本多佳子の一句(句集『紅糸』所収)。「雪はげし夫の手のほか知らず死ぬ」、「息あらき雄鹿が立つは切なけれ」、「雄鹿の前吾もあらあらしき息す」など、いずれの句にも官能的な香りが立ち籠めているが、これほど思われ、慕われるとは、何と幸せな夫だろう。
多佳子は、杉田久女に俳句の指導を受け、後に山口誓子に師事した、実力と美貌を謳われた感性豊かな俳人。
なお、松本清張に、多佳子をモデルにした短篇小説『花衣』(後に、『月光』と改題)がある。
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