菊田一夫の歯を喰いしばる人生を、本書で初めて知りました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2785)】
オオカマキリの卵鞘(写真1)、キイロスズメバチの巣(写真2)をカメラに収めました。ペンタス・ランケオラータ(クササンタンカ。写真3、4)が咲いています。トキワサンザシ(写真5)、ナンテン(写真6)が実を付けています。我が家にやって来るスズメ(写真7~12)を見ていると、時間が経つのを忘れてしまいます。
閑話休題、『昭和史講義(戦後文化篇<下>)』(筒井清忠編、ちくま新書)で、とりわけ興味深いのは、「菊田一夫――歯を喰いしばる人生」(神山彰執筆)の章です。
「菊田(一夫)は一九〇八年横浜生まれとあるが、生地も実の両親も明らかではない。少年時に養子というより売られて引き取られた。長崎から台湾に渡り、小学卒業前に大阪の薬種問屋に丁稚奉公に出され、神戸にも住む。転々とした前半生なので、各地でゆかりの作家として紹介されている」。
「やがて東京に出て、浅草でサトウハチローはじめレヴューや軽演劇の人々に巡り合うことで、菊田の人生は広がり、好転する。浅草での苦い青春時代の生活は、菊田の根底にある観客と共鳴する心性や情動性を刺激する劇作法を作り上げ、数多い傑作に結実する題材を提供した思い出の種子となった」。
「菊田の作品には、自作だけでなく、他作家の脚色作品にも、菊田の自己投影がある。下働きの日々の辛苦に堪え、歯を喰いしばる人生。やがて報われる果敢ない望み。苦難からの離脱と上昇。創作では、そこには、恋がある。菊田の場合、遠い世界の『身分違い』の叶うことない憧れの女性への『純愛趣味』となる」。
「菊田は、演劇から映画、ラジオ、テレビと昭和という娯楽メディアが多様化していく時代に、実に多彩な分野で活躍した。その上、小林一三の目利きと才腕により東宝に招かれ、小学中退の出自不明の男が『専務取締役』という『大会社の重役』になるという立身出世を果たした。・・・慶應義塾や帝大出の長身で体格のいい東宝の重役達と共に、場違いな感じでちょび髭の小男の菊田が並ぶ写真を見ると、強い感慨に捕われる」。
菊田一夫という名と作品のいくつかは知っていたが、その人物像は本書で初めて知りました。「歯を喰いしばる人生」を送った菊田に親近感を覚えると同時に、敬愛の念を抱いてしまいました。