榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ドキドキする歌舞伎の世界をカラー・イラストが見事に活写・・・【山椒読書論(288)】

【amazon 『魅力満載! 一番わかりやすい歌舞伎イラスト読本』 カスタマーレビュー 2013年9月27日】 山椒読書論(288)

魅力満載! 一番わかりやすい歌舞伎イラスト読本』(辻和子著、実業之日本社・じっぴコンパクト新書)は、歌舞伎が好きな人だけでなく、歌舞伎の魅力に気づいていない人も楽しめる本である。

先ず、著者の手になる独特なカラー・イラストと、そのコメントが素晴らしい。

「女心を魅了する人気21演目の見どころ」を紹介する文章が、これまた心憎い表現力なのだ。例えば、「桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)」は、こんなふうである。「堕落と官能のドラマにビックリ!――初めてこの芝居を観た時、度肝を抜かれちゃいました。だって『堕落の楽しさ』が、てんこ盛りだったから、きれいなお姫様が、まことにアッケラカンと、楽しげに堕落していくではありませんか、しかもエロエロな演出つきで・・・。えー、こんな話を伝統芸能でやっちゃっていいの? それは『清く正しく可愛らしい』とは真逆の、『欲望むき出しで不良な妖しい』異世界。でも、そこには、ワクワクする美のオーラがありました。・・・ストーリーは、自分を強姦したチンピラに惚れ込んだ深窓のお姫様が、出奔してチンピラと同棲し、売られて風俗嬢になるものの、最後には自分の意思で男を捨て、何事もなかったように、元の身分にチャッカリおさまる――。というもの」。

「本作は二百年前の初演以来、長らく忘れられた存在でしたが、戦後になって徐々にスポットが当たり、人気を決定的にしたのが、若き日の『孝玉(たかたま)コンビ』でした。桜姫を演じたのが、坂東玉三郎。権助が、現・片岡仁左衛門(当時は孝夫)。言わずと知れた歌舞伎界随一の美形カップルで、NY公演も果たしました。ラブシーンで玉さまを抱くニザさまの横顔の素敵さにクラクラ」と続く。

さらに、「ときめく役者13人衆!!」――市川海老蔵、市川猿之助、市川染五郎、片岡愛之助、中村福助など――も、その役者のプロファイルが的確に捉えられている。

コンパクトだが、歌舞伎というワンダーランドの魅力がぎっしりと詰まった一冊である。