facebook急成長の鍵を握る男・・・【MRのための読書論(65)】
世界最大のSNS
facebookは、世界で6億人のユーザーを抱え、毎月5%と驚異的なスピードで成長し続けている世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サーヴィス(SNS)で、今やGoogleの牙城を脅かす存在となっている。日本、韓国、中国、ロシア、ブラジル以外の各国では、facebookがトップ・シェアを占めている。
それなのに、2008年に日本語版facebookが公開された日本でmixiやTwitterに比し知名度が低く、利用者数がトップでないのはなぜか。最大の理由は、facebookが実名主義を取っていることだろう。自分の実名を明かさずにすむmixiやTwitterを使い慣れている人々には、実名主義は何とも危険なものに映るのだろう。しかし、プライヴァシー設定によりセキュリティが確保されている実名主義だからこそ、「友達」を見つけ、繋がることができるのだ。本場、米国でのfacebook利用者を見ると、男性より女性のほうが多い。本来、ネットワークでのリスクを恐れる女性がこれだけ活発に利用しているのは、それだけfacebookでは個人のプライヴァシーが堅く守られているということを知っているからだ。この実名と顔写真による「友達」探しが、facebookの最大の特徴であり、最強の武器である、と私は思う。
facebook誕生のきっかけ
『フェイスブック 若き天才の野望――5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた』(デビッド・カークパトリック著、滑川海彦・高橋信夫訳、日経BP社)は、facebookの誕生と急成長を知るには最適の書である。
2004年に、ハーヴァード大学のコンピューター科学科2年生だったマーク・ザッカーバーグが始めたfacebookは、当初、ハーヴァード大学内だけで使うサーヴィスであったが、コロンビア大学、スタンフォード大学、イェール大学などの学生から「うちの大学でも使いたい」という声が上がり、他の大学でも使えるようにしたことから広まっていった。2006年には高校生の参加も認めるようになり、同年9月には一般にも開放され、現在では誰でも利用できるようになっている。
人と人をネットワークで結びつけていく魅力に取りつかれ、「facebookで世界をもっとオープンで透明な場所にする!」という自らの信念に固執するザッカーバーグは、かなりの変わり者だ。Tシャツ、短パン、サンダルが気に入りのスタイルで、片づけや整理整頓が大の苦手。仕事には熱中するが、プレゼンテーションや人とコミュニケーションをとるのが不得意な内向的人間で、マスコミ嫌い。そして、収益をもたらす広告なのに、心の底では軽蔑している。
facebookの成長性に脅威を感じたMicrosoftやYahoo!がfacebookを買収しようと懸命に画策したが、ザッカーバーグは遂に首を縦に振らなかった。ほとんどの役員・社員は買収による自分の資産急増を願っていたが、ザッカーバーグはお金より魅力のあるものがfacebookの中にあると信じていたからである。
ザッカーバーグが目指すもの
本書には、創業仲間の裏切り、訴訟、経営の危機、経営方針を巡る幹部間の相克、そして仲間との別れ、Googleの辣腕の上級幹部であったシェリル・サンドバーグを初めとする新しい幹部の加入、「この会社は誰の手にも渡さない」と、あくまで独立性を保とうとするザッカーバーグと大型出資者、買収画策者との息詰まる関係などがヴィヴィッドに描かれている。
しかし、一番興味深いのは、なぜfacebookが、これほど速く、これほど大きくなったのか、ということである。ザッカーバーグは、「人々ができるだけ簡単に情報を共有できる、最もシンプルで最高の製品をつくる」、「ユーザーにとって楽しく役立つ製品をつくる」ことを目指して、facebookのインターフェイスを常にシンプルで無駄なく整然としたものにさせてきた。Googleの最大関心事がコンピューターによって世界のデータ(情報)を体系化することであるのに対し、facebookのそれは現実の人間が自ら組織化するのを手伝うことである。facebookのこの個人をベースとした特性こそが、他の多くのSNSと一線を画す最大の要因となっているのだ。
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