榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「コーチング」を知らないMRの悲劇・・・【MRのための読書論(1)】

【Monthlyミクス 2006年1月号】 MRのための読者論(1)

コ-チングが優劣を分ける

「コーチング」を全く知らないMR、「コーチング」をある程度理解しているMR、「コーチング」を上手に使いこなしているMRの3群比較試験を実施したら、計画達成率ではっきりした有意差が出ることは間違いないだろう。

MRとして同程度の実力があり、同じように頑張っているにもかかわらず、「コーチング」を知らないというだけで、他社のMRに後れを取るようなことがあれば、それはそのMR個人の悲劇にとどまらず、その組織の悲劇をも意味する。

ある「コーチング」の講演会に出席した時、若い講師の説得力に感銘を受けた。そこで「先生の数ある著書の中で、一番のお薦めは何という本ですか?」と質問したところ、「一冊だけということなら『コーチングのプロが教える「ほめる」技術』(鈴木義幸著、日本実業出版社)」という答えが返ってきたのである。

コーチングは、スポーツ選手をコーチがうまく育てるように、上司が部下を上手に育てられないか、という発想から出発している。その根本を一言で表現すれば「アクノリッジメント(acknowledgement)」、すなわち「相手を認める、褒める」ことである。

著者はコーチングの具体的な技術として、下記のようなものを挙げている。
●相手が一番聞きたい褒め言葉を見つけて、それを伝える
●思い切って相手に仕事を任せる
●相手が自分にいい影響を与えていることを言葉にして伝える
●怒らずに叱る
●自分で答えを出してしまわずに相手の意見を求める
●謝るべきときは部下にも謝る
●アドヴァイスするときは相手に「No」と言える選択権を与える
●部下から送られてきたメールにも素早く返信する

コーチングの効果を上げるためには、相手のタイプに合わせて工夫する必要がある。コーチングでは思考・行動パターンに基づいて人のタイプを4つに分けている。
①人や物事を支配したがるコントローラー・タイプ
②社交的で物事を仕切りたがるプロモーター・タイプ
③控えめで人との協力関係を大事にするサポーター・タイプ
④慎重で物事を客観的に捉えるため傍観者になりがちなアナライザー・タイプ
の4つである。

本書には、相手や自分がどのタイブに属しているのかを判断するための簡単なチェックテストが添えられているが、これはなかなか役に立つ優れ物である。

なお、著者が属する(株)コーチAのホームページ(http://www.coacha.com/)にアクセスして登録すると、コーチングの基礎や企業におけるコーチング活用の最新情報が掲載されているメール・マガジン「Biz Coach Magazine」が2週に1度、無料で配信されてくる。

バレンタイン監督も活用した秘訣

コーチングは、部下に対して「私は君の価値を認めている、君を大事に思っている、君の味方である」ということを言葉と行動で伝えることである。しかし、部下だけでなく、ドクター、薬剤師、看護師、衛生検査技師、医局のラボランティン、事務長、MS、他社MR、さらには同僚、家族にも応用が可能である。そのうえ、ウマの合わない上司にも使えるところがコーチングの魅力と言えるだろう。

ドクター、薬剤師がMRに求めているのは、最新の医薬品情報はもちろんであるが、それ以前に「自分を重要視し、強力にサポートしてくれる味方」であることをMRは銘記すべきである。

人のモチベーションを高めようとするとき、忘れてはならない不朽の名著が『人を動かす』(デール・カーネギー著、山口博訳、創元社)である。具体的な実例のオン・パレードなので、どのページから読み始めてもMR活動の参考になる。

2005年のプロ野球の交流戦、イースタン、ファーム日本選手権、パ・リーグ、日本シリーズ、アジア・シリーズ優勝と6冠に輝いたボビー・バレンタイン監督の人材活用法に迫った『バレンタイン監督の人材活用術』(伊藤伸一郎著、ぱる出版)を読むと、その巧みなコーチングと緻密なデータ分析・活用が千葉ロッテマリーンズを勝利へ導いた原動力であったことがよく分かる。