「心を鍛える」のではなく、「心を整える」のはなぜか・・・【MRのための読書論(67)】
長谷部なんて知らなかった
正直言って、長谷部というサッカー選手のことは、何も知らなかった。南アフリカ・ワールドカップやカタール・アジアカップの試合をテレビで一緒に見ていた女房から「長谷部という選手は感じがいいわね」と話しかけられ、初めて長谷部の名前と顔を覚えたぐらいで、本当に何も知らなかったのだ。ところが、『心を整える。――勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(長谷部誠著、幻冬舎)を読んで、びっくりしてしまった。たちまち、長谷部誠という人間の熱烈なファンになってしまった。著者のこの本の印税の全額が東日本大震災支援のために寄付されるというのも、いかにも長谷部らしい。これからは、ピッチの内外の長谷部の動向から目が離せなくなりそうだ。
長谷部誠の思い
著者の子供時代から現在に至るまで、そして未来に向けて、サッカーを中心に彼の考え方と行動が気負うことなく綴られている。「これといった長所もなく、華麗な経験もない僕がここまで生き残ってこられたスキルと概念です」、「強がってばかりいてもすぐに一杯いっぱいになってしまいますし、自分の弱さを知ってこそ、人は他人に優しくなれるのではないでしょうか」―― 一歩一歩実績を積み重ねてきた著者の思いが詰まったこの本は、常に実績を求められるMRに多くのヒントや気づきを与えてくれることだろう。
「プロサッカー選手は外から見ると華やかな職業に見えるかもしれないけれど、当然楽しいことばかりではない。ケガ、レギュラー争い、メディアからの批判、選手寿命との戦いなど、精神的に追い詰められる要素がたくさんある」と、著者は自分の置かれた状況を大局的に把握している。
具体的なアドヴァイス
「整理整頓は心の掃除に通じる」、「過度な自意識は必要ない」、「恨み貯金はしない」、「お酒のチカラを利用しない」、「孤独に浸かる――ひとり温泉のススメ」。特に、「マイナス発言は自分を後退させる」の「愚痴だけでなく、負の言葉はすべて、現状をとらえる力を鈍らせてしまい、自分で自分の心を乱してしまう。心を正しく整えるためにも愚痴は必要ない」という指摘が心に残る。
「苦しいことには真っ向から立ち向かう」、「頑張っている人の姿を目に焼きつける」、「グループ内の潤滑油になる」、「注意は後腐れなく」、「偏見を持たず、まず好きになってみる」、「常にフラットな目標を持つ」、「情報管理を怠らない」、「群れない」。「集団のバランスや空気を整える」の「試合に出られなかった選手は、チームが勝ったことを喜びながらも悔しくないはずがない。少なくとも僕は試合に出られず、複雑な思いをしたことが何度もある」という正直な述懐が印象的だ。
「監督の言葉にしない意図・行間を読む」、「競争は、自分の栄養になる」、「努力や我慢はひけらかさない」。「組織の穴を埋める」の「焦らず我慢して継続すれば、いつか『組織の成功』と『自分の成功』が一致する。それを目指しているのであれば、組織のために自分のプレーを変えることは自分を殺すことではなくなる」、「運とは口説くもの」の「さぼっていたら、運なんて来るわけがない。それにただがむしゃらに頑張っても運が来るとは限らない。普段からやるべきことに取り組み、万全の準備をしていれば、運が巡ってきたときにつかむことができる。多分、運は誰にでもやってきていて、それを活かせるか、活かせないかは、それぞれの問題なのだと思う。・・・逆に『運が悪かった』とも思わない。結果が悪かったときには、『運』を味方につける努力が足りなかったのだと思っている」という言葉は、胸に染みる。
「読書は自分の考えを進化させてくれる」、「読書ノートをつける」、「夜の時間をマネージメントする」、「遅刻が努力を無駄にする」、「ネットバカではいけない」、「常に最悪を想定する」、「指揮官の立場を想像する」、「勝負所を見極める」、「他人の失敗を、自分の教訓にする」、「変化に対応する」、「迷ったときこそ、難しい道を選ぶ」、「指導者と向き合う」――私が特に感銘を受けた言葉を挙げてみたが、それぞれに付されている彼の体験談抜きにこれらの言葉を見ただけでも、長谷部誠が只者ではないことが分かるだろう。
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