榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

思わず、くすっと笑ってしまう作品が満載の『犬つくば集』・・・【山椒読書論(788)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年5月7日号】 山椒読書論(788)

犬つくば集』(鈴木棠三校注、角川文庫)には、思わず、くすっと笑ってしまう作品が満載だ。

●霞のころもすそはぬれけり 佐保姫のはるたちながらしとをして
「すそがぬれたのは、春の女神である佐保姫が立ったまま小便をしたからだろう。春立つに立小便をかけてある」。

●わが身ひとつはもとの身でなし 月やあらぬ春やむか歯のぬけはてゝ
「在原業平の<月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身一つはもとの身にして>の歌をもじって、昔から向歯へ脱線し、向歯も抜けてしまい、昔の元気はどこへやらと前句に応じた。向歯は、上の前歯」。

●小町も尼になりてかたらへ 花の色はうつりにけりな梅法師
「その姿たるや、昔の色香は失せ果てて、梅干婆でしかない。絶世の美人として艶名高かった小野小町の代表的な歌<花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに>の句を取った」。

●おそれながらも入れてこそみれ 足洗ふ盥の水に月さして
「性行為における男の動作をよんだらしい感じを直感的に与える前句。足を洗おうとして盥に近付いたら、水に月が映って居り、足を入れるのがもったいないような感じがする。それで恐るおそる入れて見た、と背負投げをくれた。月は神仏同様に尊ばれるので、恐れながらの前句に対応する」。

●内はあかくて外はまつくろ 知らねども女のもてる物に似て
「中は赤くて外はまっくろだ。よくは知らぬが、そういう物は女の陰部に似ていよう」。

●夫婦(めうと)ながらや夜を待つらん まことにはまだうちとけぬ中直り
「夫も妻も早く夜が来ればよいと思っていることだろう。前句は新婚夫婦かなどだが、付句では別の場合を出した。夫婦げんかのあと、一応平静に復したが、まだほんとに打ちとけたわけでない、そんな夫婦。いままでの体験で、『夫婦げんかは寝て直る』という真理をよく知っているのである」。

●ふぐりのあたりよくぞ洗はん むかしより玉磨かざれば光なし
「股間は不潔になりやすいところだから、よく洗っておこう。むかしから『玉磨かざれば光なし』とことわざにいうくらいだから、よく洗うがよい」。

●さらと起きてはくみあひにけり 斎宮と昔男のねやのうち
「さっと起上がると、また取組み合った。前句は喧嘩の光景らしいが、それを男女の性行為のさまとした。昔男は『伊勢物語』の主人公在原業平。『伊勢物語』に、昔男が伊勢国へ狩の使に行き伊勢の斎宮を閨の内に引き入れはしたが、ただ物語をしたのみで別れた。翌晩は真実に逢おうとしたが、どうしても機会がない。明け方になって、女の方から出した杯の皿に歌を書いて渡したとある。前句の『さらと』を皿にとりなして、これを露骨に作りかえた付句」。

●いかにをなごのいれたがるらん ともし火のきえての後のまどの月
「女というものは入れたがっているものだ。女性軽蔑と男のひとりよがり。灯火が消えた後、窓の月を部屋に入れたがるのだと、一転した背負投げの技巧」。

●目出たけれども恥をこそかけ お比丘尼の玉のやうなる子をもちて
「めでたいことはめでたいけれど、恥さらしの事だ。それは何かというと、比丘尼が玉のような子を生んだ。子を生むべきでない尼が子を生んだのだから、安産はめでたいとはいえ、恥かきだ」。