誦すれば秀歌の余韻我が胸をゆたりゆたりと浸しゆくかな・・・【山椒読書論(789)】
【読書クラブ 本好きですか? 2023年5月8日号】
山椒読書論(789)
『先輩の本棚――CATALOGUE of GIFT BOOKS 2023』(文化通信社)の中で、敬愛する阿刀田高が『近代秀歌』(永田和宏著、岩波新書)を薦めている。「著者と対話しながら読み進む。著者がなぜこれを選び、どこで苦労し、どんな結論を得たか、親しく語り合って読もう」。
●やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君――与謝野晶子
●木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな――前田夕暮
●君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ――北原白秋
●しらたまの君が肌はも月光(つきかげ)のしみとほりてや今宵冷たき――川田順
●われ男(を)の子意気の子名の子つるぎの子詩の子恋の子あゝもだえの子――与謝野鉄幹
●垂乳根の母が釣りたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども――長塚節
●友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ――石川啄木
●白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり――若山牧水
●ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく――石川啄木
●あなたは勝つものとおもつてゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ――土岐善麿
●幾山河(いくやまかは)越えさり行かば寂しさの終(は)てなむ国ぞ今日も旅ゆく――若山牧水
●馬追虫(うまおひ)の髭のそよろに来る秋はまなこを閉じて想ひ見るべし――長塚節
●白鳥(しらとり)は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ――若山牧水
誦すれば秀歌の余韻我が胸をゆたりゆたりと浸しゆくかな――榎戸誠。