榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

村上春樹以外にも、日本人のノーベル文学賞受賞候補が出てきている・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2947)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年5月14日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2947)

図書館の花壇の花を見にいった撮影助手(女房)が、見慣れないチョウがいるわよ、と館内に駆け込んできて、スマホで撮影したチョウを示しました。慌てて駆けつけ、ダイミョウセセリ(写真1)をカメラに収めることができました。コミノネズミモチ(写真2)、シロバナエニシダ(写真3)、ツボサンゴ(ヒューケラ。写真4)、シロバナシラン(写真5)、ギボウシ(ホスタ。写真6)、マツバボタン(写真7)が咲いています。我が家の庭では、ガクアジサイ(写真8)が咲き始めました。

閑話休題、『文学は予言する』(鴻巣友季子著、新潮選書)で、個人的にとりわけ興味深いのは、ノーベル文学賞受賞候補の日本人について論じられた部分です。

「村上春樹のノーベル文学賞受賞は、今のところ実現していないが、そうこうするうちに、次のノーベル文学賞候補が日本人作家のなかから出てきている。ひとりは、小川洋子だ。『密やかな結晶』の英訳The Memory Policeが、2019年の『全米図書賞翻訳文学部門』、2020年の『ブッカー国際賞』の最終候補となり、さらに2020年の『アメリカン・ブック・アウォード』にも選ばれた」。

「もう一人の候補者といえば、ドイツ在住の多和田葉子だ。ゲーテメダルを受勲、ドイツの権威あるクライスト賞なども受けているが、2018年には、原発事故を風刺したディストピア小説『献灯使』の英訳版で全米図書賞翻訳文学部門を受賞した。多和田一流のダジャレや言葉遊びや風刺をよく英語に訳せたものだと、(訳者の)満谷氏への称賛もひきもきらない」。

「つぎに紹介したいのは、小川洋子、多和田葉子のダブル・ヨウコよりさらに若い世代の作家、とくに女性の小説家たちの活躍だ。一人目は、『コンビニ人間』、『地球星人』、『生命人』などが英米で高評価されている村田沙耶香である」。

「このように海外文芸イベントに登壇し、ベストブックスに選出されているのは、村田沙耶香だけではない。たとえば、2020年に英語圏デビューをしたのは、川上未映子だ。非配偶者間人工授精(AID)をテーマにした600ページの大作『夏物語』の英語版Breasts and Eggsには、『タイム』紙、『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストリスト入りもさることながら、読者からも熱狂的な反響があるという」。

「小川、多和田の作品がディストピア文学的な潮流のなかで注目されているとしたら、村田沙耶香や川上未映子の小説の注目点は、いままで英語圏読者があまり知らなかった日本の下層社会の存在や、妊娠出産にまつわる選択の困難と生きづらさが、まざまざと描かれていることだろう。とくに女性の就職、結婚、出産というルートを想定する固定観念に、深い疑問を投げかけているところにも普遍的な関心が寄せられているのではないだろうか」。

いつものことながら、鴻巣友季子の鋭い考察には目から鱗が落ちます。