都会の野鳥たちに関する、著者の長年に亘る研究成果が盛りだくさん・・・【山椒読書論(800)】
『都会の鳥の生態学――カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(唐沢孝一著、中公新書)は、都会の野鳥たちに関する、著者の長年に亘る研究成果が盛りだくさんである。
●スズメはツバメの巣を横取りしようとする。
●ツバメは一年の大半は都会を離れて野の鳥として暮らし、子育てのときのみ人をガードマン代わりに利用して人家で繁殖する。
●キジバトは1955年ころまで、東京都心では繁殖していなかった。23区内に進出して話題になったのは1960年ころの杉並区であった。
●ヒヨドリは1960~70年ころまでは都心では秋~冬に飛来する冬鳥であり、春になると山地に戻って繁殖していた。都心で繁殖が確認されたのは1968年ころであり、1973年には都内のほぼ全域で繁殖するようになった。
●マンホールは餌不足の冬の小鳥たち――ウグイス、ジョウビタキ、メジロ――にとっては高級レストランである。鳥たちのお目当ては大量に発生するユスリカ。
●海岸の磯に暮らすイソヒヨドリが、東京・銀座のビル街にも進出してきた。
●巣立ったツバメの雛は、他の巣に潜り込んで餌をもらうことがある。これを労働寄生という。
●コチドリは、河が氾濫し、石がゴロゴロ転がっている河原などで繁殖する。夏鳥として日本に渡来し、植生のない裸地で繁殖する。裸地での繁殖は過酷である。天敵には見つかりやすく、風雨に晒される。しかも、数年でパイオニア植物(先駆植物)が繁茂してしまい、コチドリは繁殖できなくなる。子育てのために毎年新しい裸地を探さねばならない。さすらいのパイオニアバードである。
●ハシブトガラスでもハシボソガラスでもない第三のカラス・ミヤマガラスが関東平野で急増している。
●夏の早朝、カブトムシやミヤマクワガタなどの頭や脚がバラバラに切断されて落ちていることがある。角や大顎がまだ動いていることがある。この犯人は、切り口が鋭く切断されていればカラス、切断面が潰れてギザギザであればタヌキである。
●ツミの巣の周辺ではオナガが必ずといっていいくらい高頻度で繁殖している。ツミにとっても、オナガにとっても、共通の天敵であるカラスに対して共同防衛により安全を確保しているのである。
キジバトについては、私も一言――。1957年、東京・杉並の荻窪の昆虫少年だった私は、近くの林の叢でバタバタしている鳥を捕虫網で捕まえた。それは傷を負ったキジバトだったのだが、当時、滅多に見かけないキジバトということで大興奮したことを鮮明に覚えている。リンゴ箱で鳥小屋を作り、数カ月飼っていたが、ある日、まだ飛べないと思って鳥小屋から出したところ、大空に飛び去ってしまったのである。
カブトムシの大量のバラバラ死体についても――。私も何度も目にしており、犯人は誰なんだろうと気にかかっていたが、本書のおかげでスッキリすることができた。
NPO法人自然観察大学で丁寧に教えてくださる唐沢孝一先生に感謝!