榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

何で、こんな奇妙奇天烈な昆虫が存在しているのか・・・【山椒読書論(125)】

【amazon 『わっ! ヘンな虫』 カスタマーレビュー 2013年1月15日】 山椒読書論(125)

わっ! ヘンな虫――探検昆虫学者の珍虫ファイル』(西田賢司写真・文、徳間書店)は、「何じゃ、こりゃ」と思わずのけ反りそうになる、へんてこりんな昆虫のオン・パレードである。

中米のコスタリカで探検昆虫学者として活動している著者が、そこで出会った奇妙奇天烈な昆虫たちの形態と生態を、豊富なカラー写真とともに紹介している。

コスタリカは面積が小さな国なのに、なぜ、これほどさまざまな昆虫がいるのかといえば、熱帯雨林、熱帯乾燥林、熱帯湿潤林、熱帯雲霧林、高山草原地帯という5つの多様な自然環境が影響しているのだ。

「生きた宝石」と呼ばれるモルフォチョウや、「生きた超合金」のようなプラチナコガネ、世界最重量のエレファスゾウカブトの幼虫(150g)、世界最大のカブトムシ、ヘラクレスオオカブト(体長17cm)、世界最大のガであるナンベイオオヤガ(翅を広げた長さ30cm)も顔色を失うような面々が、この地には凝縮しているのである。従って、著者は「毎日、新種発見!」状態なのだ。

特に衝撃的な観察例――他の昆虫の卵や幼虫に卵を産みつける寄生バチの説明を読みながら、その生々しい写真を見ると、背中がゾクゾクしてくる。「寄生バチの『寄生』の生態は、動物に寄生する寄生虫のものと違います。人間に寄生するカイチュウなどは、人を殺すことはほとんどありませんが、寄生バチは、生きた昆虫に寄生しながら、最後に寄主(きしゅ)を食べつくすか、寄主を殺します。・・・写真は、寄生バチ、タマゴクロバチの一種が、カメムシの卵に寄生して、幼虫が卵の養分を食べ尽くして、その卵の殻の中でサナギになっているところです。成虫になったタマゴクロバチは、カメムシの卵の殻を食い破って、外に出てきて、翅を整え、次々に飛び立っていきました。カメムシの卵は全部で14個あったのですが、カメムシの赤ちゃんは1匹も卵からかえりませんでした。14個中14個とも、この寄生バチに乗っ取られていたのです」。

さらに、「成長するための養分を寄主からいただくだけではなく、寄主の『人生(虫生)そのもの』を操作する寄生バチがいます」というのだから、驚くではないか。「写真は、ヒメバチの幼虫がクモの頭部と胴体の間に襟巻きのようになってへばりついているところです。ヒメバチの幼虫は、クモの体液を吸いながら少しずつ成長していきます。ほとんどのクモはそれぞれ決まった形の巣を張ります。ヒメバチの幼虫を背負っていても、なんら変わりもなく毎日いつもと同じように巣を張り替えていきます。そしていつものように巣にかかる獲物を食べています。ところが、突然ある夜、クモはいつもの巣を張るのをやめて、今までとは、まったく違う巣を張りはじめます。それはヒメバチの幼虫がサナギになろうとする前夜に起こります。ヒメバチが安全にサナギになる場所を備えるかのごとく、ヒメバチ専用のクモの巣を張るのです。ヒメバチのサナギがその中央に安全にぶら下がるためです。ヒメバチの幼虫が、何らかの刺激物質をクモに注入して、クモを自由自在に操っているのです。そして、ヒメバチの幼虫はエックス(X)状の巣を張り終えたクモを、これで最後とばかりにいっきにその生き血を吸いきり、殺してしまいます」。寄生バチ、恐るべしである。