榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

井上ひさしの現在望み得る最上かつ最良の文章上達法とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1564)】

【amazon 『井上ひさしベスト・エッセイ』 カスタマーレビュー 2019年7月30日】 情熱的読書人間のないしょ話(1564)

千葉・柏の「あけぼの山農業公園」は、ヒマワリの黄色一色です。セイヨウミツバチたち、ニホンアマガエルの幼体たちをじっくりと観察することができました。因みに、本日の歩数は10,845でした。

閑話休題、エッセイ集『井上ひさしベスト・エッセイ』(井上ひさし著、井上ユリ編、ちくま文庫)の中で、いかにも井上ひさしらしいなと感じたのは、「書物は化けて出る」と「現在望み得る最上かつ最良の文章上達法とは」の2篇です。

「警句の構造を借りて『この世の中には二種類の人間がいる。書物なしに生きることのできる奴と、そうではない奴だ』という下手な類似品をひねり出せば小生はさしずめその後者、すなわち『書物なしでは生きることのできない奴』に属するだろう」。

「いまでは家中を書物に占領され、こっちの方が小さくなって生きている。『エイ、面倒くさい』と、のさばり返った書物を叩き売ればどうなるか。きっと化けて出る。・・・なんのことはない、小生はかつて自分が売った書物(そのもの)をまた買い込んでしまったのである。手放したときは安く買い叩かれ、また手に入れれば結構な高値で、だいぶ損をした。がしかし、金銭的なことよりも、『やられたな』と思って気分が沈む。なにしろこの全集は『この全集の前所有者はかなりの愚物にちがいない』と小生自身に小生の口から悪態をつかせたのだ。叩き売られた怨みを十年間も忘れずいまごろ化けて出るとは、女、いや書物というやつもずいぶん執念深いではないか」。

私にも同じような経験があるから、井上ひさしを決して笑うことはできません。

「編集部から与えられた紙数は四百字詰原稿用紙で五枚。これっぽっちの枚数で文章上達の秘訣をお伝えできるだろうか。どんな文章家も言下に『それは不可能』と答えるだろう。ところが筆者ならこの問いにたやすく答えることができる。それに五枚も要らぬ。ただの一行ですむ。こうである。『丸谷才一の<文章読本>を読め』。とくに、第二章『名文を読め』と第三章『ちょっと気取って書け』の二つの章を繰り返し読むがよろしい。これが現在望み得る最上にして最良の文章上達法である。・・・個性のある文章が書きたい、それも少しでもいいものをとお考えの読者は、まず丸谷版読本を、これは立ち読みで間に合わせようとせず、まじめに購入し、熟読することだ。さらにむやみやたらに文章を読むことが肝要である。秀れた文章家は、ほとんど例外なく猛烈な読書家である。どうかその真似をしてほしい。いい文章を書こうとする前に感心な読書家になるのだ』。

「好きな文章家を見つけたら、彼の文章を徹底して漁り、その紙背まで読み抜く。別に言えば、彼のスタイルを自分の体の芯まで染み込ませる。これが第二期工事である。そして次に、彼のスタイルでためしにものを書いてみる。・・・そこで大切になるのは、いったいだれの文章が好きになるかということで、ここに才能や趣味の差があらわれるのだ。だからこそ日頃から自分の好みをよく知り、おのれの感受性をよく磨きながら、自分の好みに合う文章家、それも少しでもいい文章家と巡り合うことを願うしかない。つまり文章上達法とはいかに本を読むかに極まるのである」。

ここで秘密を明かせば、私の好きな文章家は、井上ひさしなのです。